第1570話、戦う者と滅ぼされるべき物
「とはいえ俺も、敵となる相手の命を奪う事に躊躇は無い以上、人によっては大した差は無いだろうがな。理不尽に命を奪う存在としては同類―———」
「違う! そんな連中と貴殿が同じであって堪るものか!」
「絶対に違います!」
「―———―何だ、姉妹揃って」
連中と俺が同類と本心からは思っていないが、客観的に見れば近い存在だ。
命を奪う理由が違うだけだ。奪われる覚悟が有るか無いかの違いだ。
偶然殺す理由が無かったから、一見共存している様に見えるだけだろう。
もし人間を喰らう事で強くなれるなら、俺がヨイチと同じ生態なら。
俺は今のような生き方をしていたか、自分でも自信が無いぐらいに行動は危うい。
そもそも悪党として生きていくと決めたんだ。自由に我が儘に生きていくと。
故に俺が連中をどれだけ外道と思ったとして、どの口が言うのかと言われるのが普通だ。
俺も所詮悪党だからな。見ている方向が違うだけだ。善良な人間からすれば変わりない。
「母上と貴殿の戦いに加減は無かった。お互いに死力を尽くしていた。一歩間違えれば死んでいたのは貴殿だ。母上は確実に貴殿を殺す気で戦っていたのだからな。だが貴殿は自身が殺される事も承知の上で戦場に立っていたのだ。その覚悟がある者と、その様な外道とは話が違う」
「そうです。そんな、命を命とも思わない様な事、何の罪もない民を犠牲にして、更に犠牲を出す様な真似をしているんですよ。自らの行為だと表に出ず、更には他者に罪を擦り付けて。そんなふざけた事が有りますか。そんな腹立たしい事が有りますか」
だがこの姉妹にとっては大きく違うのだろう。戦場に立つ為に育った姉妹だからこそ。
妹も万が一のスペアである以上、その覚悟は問われて育ったはずなのだから。
自分の命が危ぶまれる場に立ちもせず、ただ他者の命を悪戯に奪う。
その事実が許せない。そんな者と、母親と同等に戦った存在を同じなど認められない。
この二人が言っているのはそういう事だ。それはそれで少々ズレている気もするがな。
悪党は悪党だ。俺は連中を外道と思うが、結局はどちらも悪党だ。そこは言い訳出来ない。
「その者達は、戦いの場にすら上がる気の無い者達だ。それは野盗にすら劣る。獣ですらない。ただ殺されるべき者だ。滅されるべき物だ。もしそれが連中の策で生き方と言うならば、それこそ我らとは相容れない化け物だ。化け物は、退治すべき物だ。それ以外の何物でもない」
「たとえ本人に崇高な目的があったとしても、その目的が崇高であると言うのであれば尚の事、表に出て来て来るべきでしょう。まともでは無いからこそ、排斥される行為だからこそ、表に出て来る事が出来ないだけの事。その様な外道と、貴女を同じなど絶対に言わせません」
だがこの二人にとっては、どうしても譲れない程の差が有るのだろう。
連中は悪党として裁く存在ですらないと。ただ滅ぼされるべき化け物でしかないと。
そんなふざけた連中と、母親が認めた存在を一緒にするなど、本人の言葉でも許せない。
この二人が言っているのはそういう事だ。何とも似た者姉妹だな。
「勿論俺も同類と本気で思っている訳じゃないが、客観的に見れば、同じだと思うぞ?」
「違う」
「違います」
「うっ、ちがうとおもう」
「きゅっ、ミクねーちゃは、ちがう、おもう」
『そうだね、違うね! 戻ったばっかりで何の事か全く解んないけど! でも兄は兄だから聞いてなくても何となく察せちゃうんだ! こういう時は妹の妹が正しいってね!』
何だ急にシオとヨイチまで。事実だけを見れば変わりないだろう。
俺だって、罪は特にない仕事をしているだけの兵士の命を何度も奪っているぞ。
取り敢えず戻ってきた精霊は掴んで床に叩きつける。
『へぶっ!?』
「にーちゃー!?」
ちょっと力加減を間違えたらしく、床が割れる音が大きく響いた。
そのせいかシオが心配して駆けよるが、どうせ何時も通り大した事は無いぞ。
新女王は一瞬驚く顔を見せたが、暫く床を見た後で俺に半眼を向けて来た。
「・・・精霊を叩きつけたのか?」
「そうだ」
『そうだよ!』
「・・・床が盛大に割れたんだが」
「悪気はなかった。つい投げつけてしまった」
『兄も悪気は無いんだよ! ただ悪戯心があるだけでぐえーっ!』
それを悪気があると言うんだろうが。
余りにふざけた事を言うので、全力で踏み抜いてしまった。
もはや床は割れる所か砕けている。しっかりと地面が見える。
「・・・ミク殿、ここ、私の寝室なんだが」
「すまん」
本当に壊す気は無かったんだ。今回は。悪かったよ。
「もしかして貴殿は、真面目な話が長くなるのが苦手なのか?」
そんなつもりは無いが、精霊のせいで続かない事が有るのは確かだ。
なのでその点については俺は悪くない。精霊が悪い。
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