第1569話、本当の化け物とは

「とはいえ、これは私の、この国に限った話だ。貴殿が魔獣と同じく魔核を食う事で強くなれると言うのであれば、貴殿を人間に混ざって人を喰らう化け物、等という噂を流して排除する事もあり得なくは無いだろう。むしろその為に、この話を広めているとしか思えない」


 そして自分の意見を述べた上で、世間一般がどう受け取るかも正直に告げた。

 明らかに悪意のある、敵意の有る、認識を悪い方に定着させる行動だと。

 本人の存在がどういう物であれ、悪印象を先に植え付けようとしていると。


「そうだな。呪いの道具の件と俺の件が重なっているなら、ほぼ間違いなくそうだろうよ。ただ本来なら、街の破壊も俺のせいにしたかったんだろうがな」


 もしこの二件が同じ者達の仕業であれば、それは最初から計画されている物だ。

 国を襲い、街を襲い、人を殺し、その被害の全てを俺の責任にする。

 事実がどうであろうと、証拠が残っていない大破壊だ。精霊付きの仕業にするのは容易い。


 そして俺が化け物であるのなら、精霊付きである事が尚更危険だと言う論調にも出来る。

 人を襲う事に躊躇の無い化け物。そんな化け物が精霊の力を有している事がそもそも危険と。

 だが現状その方向に話を持って行くには、呪いの道具の発覚が無い事が大前提だ。


 この国の女王が余りに強すぎたが故に、その策は大失敗に終わっている。

 故に俺を排除する理由として、化け物である事を大きくするしか無いのが現状か。


「余程貴殿を排除したいのだろうな」

「その様だ。そこまで恨まれる覚えは幾つもあるがな」

「・・・あるのか。いや、そうだろうな。あるだろうな、貴殿なら」


 俺の返答に呆れた様子を見せ、否定せずに納得した言葉を呟く新女王。

 今までの言動を思い返せば、俺がどういう事をして来たのか何となく察したんだろう。


「あるな。大量に」


 今まで俺がやって来た事を考えれば、俺を殺したい奴など大量に居る。

 何人も何人も殺して来たんだ。恨まれていないはずが無いだろう。

 立場を無くした者が逃げ延び、その先で俺の暗殺を企てても不思議はない。


 とはいえ今回は、そちらの可能性は低いと思ってはいるがな。

 余りにも呪いの道具の使い方が雑だ。ポンポンと使い過ぎだ。

 この感じは覚えがある。胸糞悪い戦争の時と同じ感じだ。


「・・・クソ共が」


 確実に後ろに連中が居る。たとえ違っても、碌でも無い連中が後ろに居る。

 呪いの道具を意図的に作り出し、単純な破壊兵器として使い捨てる連中が。

 目的地の国でも作っているのか、それとも今まで作った分んを吐き出しているのか。


 どちらにせよ、命を粗末に扱っている。殺される覚悟も無く弄んでいる。

 自分達は高みの見物で、現地で死ぬ人間の事など何も考えていない。

 殺した恨みを背負う気も、命を背負う気も無く、ただ自分の欲の為に殺戮を産む。


 下らない。胸糞が悪い。心底不快だ。相対すれば確実に殺したい相手だ。


「相手に覚えが有るのか?」


 俺の不愉快な声音を聞いた新女王は、真剣な表情に戻して訊ねて来た。

 妹の方も喉を鳴らし、俺の返答に構えている。どんな外道が相手なのかと。


「恐らく、だがな。似た様な手を使われた事が有る。呪いの道具を大量に作って、国を壊した連中が居る。その連中はとっとと逃げて、逃げた後の国を俺が潰した」

「・・・呪いの道具を、大量に? いったい、どうやって」

「さあな。詳しい手法は知らん。だが人間を何人も使って作るそうだ。数百人か、数千人か知らんがな。連中にとっちゃ、人の命などただの素材だ」

「―————馬鹿な」


 余りの話に、新女王は驚愕の表情を見せた。きっと彼女には考えられなかったのだろう。

 まるで魔獣の素材を使うかのように、人の命で物を作る連中が居る事が。

 そしてそんな外道を実際に出来る連中が居る事を、直ぐには受け止められなかった様だ。


 口を押えて険しい顔を見せ、暫く何も言わずに目を瞑っていた。


「それでは、どちらが化け物だ。化け物は、化け物などと呼ばれるべきは・・・!」


 そして出した結論は、どこぞの辺境領主が告げた言葉に似ていた。

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