第1567話、禁忌の化け物

「今のは精霊に言ったんだ。気にするな」

『ん-! んんんんっんんん!』


 口を塞いでるならそのまま喋るな。塞いでいる意味が無いだろうが。


「そ、そうか。突然不機嫌になるから、こっちは本気で驚いたぞ」

「それに関しては謝る。すまない」

「・・・え?」


 俺が素直に謝ると、新女王は心底驚いた顔で俺を見詰めて来た。

 何だ、俺が謝らない人間だとでも思っていたのか。

 流石に非がある時ぐらい謝罪はするぞ。


「何だ、俺が謝っちゃおかしいか」

「正直に言えば違和感しかない」

「こいつ・・・もう一回脛蹴ってやろうか」

「先程と同じ様に、痛み分けになるだけだと思うぞ」


 そうなんだよな。コイツを攻撃すると、半自動で水晶が防御行動を取りやがった。

 魔力を纏って強化するせいで、蹴った俺の足の方も痛かった。

 勿論完全な防御になっていないので、お互いに痛みが走る状態だったが。


 王族の女を呪い殺す道具の癖に、呪い殺す相手の事を守りやがる。

 本当に良く解らん道具だ。一体何がどうなればそんな道具になるのやら。


「それでも蹴られるお前の方が痛みは上だ」

「蹴られると解っているなら全力で防御するぞ」

「ならば時はこちらも全力で身体強化をして蹴るまでだ」

「八つ当たりに全力を出さないでくれ。そもそも今回悪いのはそちらなのだろう」


 そう言われると何も言い返せない。実際その通りだから謝罪したのだしな。

 ・・・一体何をしているんだ俺は。時々子供の様な馬鹿をしている気がする。


「・・・ああ、そうだ。一つ確かめたい事が有る」


 思わず自分に対して溜め息を吐いていると、新女王が真剣な顔を見せた。

 今思い出したという様子ではあるが、下らない話しでは無いだろう。

 前女王なら、そのままクスクス笑いながらふざけそうな気がするが。


「貴殿は魔核を喰らうのか?」


 ああ、成程。それはそんな顔になるだろう。大分踏み込んだ問いだ。


「その話は、俺を排除するべきだ、という内容に関しての事だな」

「ああ。とある辺境に住み着く精霊付き。だが精霊付きとは名ばかりの化け物であり、魔核を喰らう事で強くなっている人間もどきの魔獣だ。人型に騙されるな。見た目に惑わされるな。アレはただの化け物だ。人が総力を持って打倒しなければいけない禁忌だと、な」


 随分な言われようだが、間違っていないのが笑える所だ。

 特に人間もどきの化け物って部分だな。俺を良く表現している。

 人の形をした化け物。なまじ人型が故に、話が通じると思ってしまう化け物だ。


「そうだ、と言ったらどうする」

「―————っ」


 きっと彼女は、俺が否定をする事を期待していたのだろう。

 魔獣ではないと。化け物ではないと。魔核を喰らうはずがないと。

 自分は正真正銘の人間であり、精霊付きとしての力を使っているだけだと。


 さてどうする。この事実を知って、お前はどうする。どう考える。


「・・・隠すつもりは無いのか」

「べらべらと誰にでも話すつもりは無いし、こちらから告げるつもりもない。聞かれたら答えるかどうかは相手次第だ」

「・・・私は信用された、と思って良いのか?」

「別に信用はしていない。だが黙っていた所で同じ事だ。その問いかけは、確信を持った上での問いだろう。ならば否定をした所で何の意味が有る」


 否定をして欲しかったのだろう。だが否定をしない事も解っていたはずだ。

 そして俺が否定したとしても、その否定を信じる事も出来なかったはず。

 既に俺が、精霊の力を使っていないと、そう言ってしまっているからな。


 それでも普通の魔術を使っていれば、強い疑念は産まれなかっただろう。

 吹雪、土、風、強化までならまだ良い。応用で何とか出来るかもしれない。

 魔術の高みに昇った人間なら、魔獣の魔術に似た物を使えるんだしな。


 だがモルモットは完全にアウトだ。アレは言い訳が出来ん。

 明らかに異常な魔術だ。どう考えても普通の魔術じゃない。

 だから、どちらにせよ同じ事だ。俺がどう答えた所でな。


「それで、どうする。俺を殺すか? 禁忌の化け物を」


 先程の誓いを破るか? まあ、それも一つの選択だろう。

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