第1565話、もう一つの可能性
「それで結局、他の国は道具の破棄を決めたのか?」
『兄は捨てちゃって良いと思うなー?』
「いいや。この辺りは小国群だからな。呪いの道具の放棄は、そのまま戦力の放棄に近い。たとえ本当は使いたくなくとも、いざとなれば使うという威嚇は十分に意味が有る」
まあ、そうなるか。当たり前と言えば当たり前だ。
小国にとって、攻める価値が無いと思わせる力の存在は大きい。
それこそ一連の事件で、余計に保有国への手出しを面倒に思うだろう。
いざとなれば街を吹き飛ばして自爆する。そんな兵器のある場所への進軍なんざ意味が無い。
もしやる者が居るとすれば、兎に角世界を手中に収めたい人間だろうか。
その国が欲しい訳でも、土地が頬しい訳でもない。ただひたすらに征服を望む者。
稀に居るんだよな。そういう狂人が。目的と手段が通常の逆になっている人種が。
だがそういった人間に対しても、やはり呪いの道具の存在は脅威になるだろう。
戦力を無駄に削られるからな。普通の戦争ならあり得ない消耗をしかねない。
呪いの道具の持ち主と相対したからこそ解るが、一般人では抗い様のない力だ。
勿論無敵ではない。奴等には明確な弱点がある。継戦能力の低さという弱点が。
となるとやる事は消耗戦だ。肉の壁を大量に要する事で時間を稼ぐ。
もしくは死を覚悟した精鋭に、なるべくしなないように立ち回らせるか。
どちらにせよ大損害だ。しかもそれが上手くいく保証もない。
「大国同士の小競り合いなら中々そんな事も無いのだろう。だが小国が呑み込まれない為には、攻めたく無くなる理由が必要だ。世の中は、善意で出来ていないからな」
「そうだな。その通りだろうよ」
『むーん、兄には解らないなー。あんなの捨てちゃった方が絶対良いのに』
新女王と俺の意見は同じだが、精霊の観点からすると違う様だ。
まあ魚が以前言っていた事から察するに、アレは精霊にとっては毒に近い汚物だ。
ヨイチの時に侵食されたという類の事を言っていたし、力が落ちたとも言っていた。
勿論微々たるものなんだろうが、それでも気持ちが悪い事には変わらないと。
精霊が自然の有るがままの存在とすれば、呪いは世界の不純物なんだろうか。
「危険な精霊付きを排除すべきだという話を持ち掛けられた中、この様な事件が起こり始めた。最初は精霊付きが暴れたのでは、という噂もたっていた。我が国も警戒していたよ」
「なる、ほど」
『ほどほどー?』
てっきり戦力放棄が目的かと思ったが、そちらの可能性も有るのか。
俺が呪いの道具とやり合っている事実は既に数か国が知っている。
何なら呪いの道具関連で一国をほぼ壊滅させている。
俺がやったという噂が立てば、それを信じる層が出てきておかしくない。
むしろこっちの方が、連中の策としてはしっくりくるな。
「だが貴様は信じなかったと?」
『妹の事を信じたんだね?』
「先程言っただろう。母上が戦ったと。自爆など許さず草原に放り出し、そのまま制圧したんだよ。その際に尋問もしたそうだ。言動がかなり支離滅裂で面倒だったそうだがな」
ああ、それは完全に使い捨てだな。何時か出会った『使い手』とはまるで違う。
初めて会った『杖』を持った女の時と同じだ。頭の方が完全に壊れている。
「その結果、呪いの道具を与えている連中が居るらしい事が解った。各国の襲撃事件は、精霊付きではなくその連中らしい事がな。勿論頭の壊れた者の言う事である以上、全てを鵜呑みには出来ないのは確かだ。だが、それでも、無視できない話であると各国に情報を送ったんだ」
「その結果、他の国でも続々情報が出た、という事か?」
『岩の裏の虫みたいにいっぱい?』
どういう表現だ。確かに大量に居る印象は有るが。
「荷物に対する検問をかなり厳しく始めた国が増え、その結果街に入り込まれずに済む事が多くなったそうだ。精霊付きと違い、呪いの道具は現物が見えて存在するからな」
「検問か・・・だが、アレは見ただけで解る物か?」
『兄は解るよ?』
本当か? 前に使われるまで気が付かなかった事が有った気がするぞ。
それともわざと呆けていただけなのか。コイツの場合はどちらか解らんな。
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