第1564話、先の狙いは何か

「最初こそ、今が攻め入る機会などと怪しい動きをしていた国もあったが、最近では明日も我が身かと警戒を高めていると聞く。貴殿が居る国ではどうかはしらないがね」

「ふむ・・・国の方針的な物は聞いていないな」

『なーんも知らない!』


 俺は余り情報収集をしっかりやっていないので、その辺りの事は良く知らない。

 それに辺境領主はこの事件の事を語らなかったので、余計に何も知らなかった。

 彼も解っていないのか、解っていて話さなかったのか、どちらかは解らんが。


 まあ知っていた所で、結局どうしようもないという部分もあるがな。

 この事件を引き起こしているのが連中だとして、奴らに至るのは難しい。

 どうせ死ぬのは使い捨ての人員だ。俺の時と同じ様な死ぬ前提の使い方だ。


 あの時も結局後ろの犯人までは至れていない。実行犯が死んでいるからな。

 死んでいない場合も、態々情報が漏れないように『処理』している。

 となれば意味の無い無駄に情報を与える事になるのを嫌ったか?


「まだ情報が届いてないだけの可能性もあるが、さて」


 俺達だから数日でここまで来れた。普通は不可能な速さだ。

 情報を届けるだけの人員を作っているとしても限界がある。

 特に諜報員として潜り込ませている場合、急いでいる姿は見せられない。


 道中の街道で怪しまれる訳にもいかず、隠れて山道を行くなら更に時間がかかる。

 短くてひと月、長ければ2~3か月は情報の内容がズレておかしくないだろう。

 車も電車も無い世界だからな。獣に乗って移動しても限界がある。


 それこそ使い潰す勢いで移動していれば、何処かの国境で怪しまれるだろうよ。

 俺は山を通って来たから問題無いが、本来は何か国も経由するらしいからな。


「犯人は兎も角、何の意図が有るのやら」

『糸かー、妹ってば繕う為の糸は白しか無いもんねー? もっと赤とか黄色とか、綺麗な色の糸で刺繍しよう! 兄は兄の似顔絵を刺繍してくれると嬉しいです!』


 絶対にしない。刺繍の技術は有るが、お前を喜ばせる為には絶対に使わない。


「さて、共通項がある事も最近気が付いた話ではあるし、意図はさっぱり解らん。国を奪う訳ではない。滅ぼす訳でもない。勿論小国の街一つが滅ぶのは、ほぼ国が亡ぶのと同じではあるが、その後の行動は何も無い。ただ私個人としては、何かを確かめている様に感じるが」

「確かめている、か」

『ふっ、貴様らの力、兄が確かめてやろう!』


 確かに、態々呪いの道具を持つ国を狙っているとなれば、俺もそう感じる。

 有るとすれば、自分達が作った道具と、天然の道具の力の差の確認か。


「そういえば、国が保有している方の道具はどうなったんだ。そっちも壊れたのか?」

「いや、そちらは大半現存していると聞く。とはいえこの様な状況が続く中、道具を保有していると喧伝する方が危険なのでは、という声が大きくなっている様だがな」


 呪いの道具を使うと声を大にする事で、実際の戦力は兎も角国防の一端にはなる。

 だがそれに効果が有る所か、現状は逆効果になっている。ならば意味は有るのか。

 そんな風に考える層が出るのもおかしくは無い。おかしくは無いが悪手だ。


 民からすれば忌避する存在の道具でも、使うぞという脅しには本来なる筈なんだ。

 ただしそれは、常識的な利益を求める人間相手の場合だ。国同士の場合だ。

 もし連中の仕業なのであれば、むしろ使わせたいと考えている可能性が高い。


 でなければ態々保有国を狙いはしないだろう。だがその最終的な意図は何だ。

 何かを確かめている様にも思う。だがその先にも結果を求めている様にも思う。


「我が国は母のおかげで被害は軽微だったが、貴殿への最初の対応は・・・私に同じ事が出来る自信は無かったが故の焦りだろうな。街の外で片を付けるしかないと考えてな。今冷静になって考えれば、せめて人を送って武装解除をさせる程度はするべきだった」

「それでも解除に応じたかどうかは解らんがな」

『妹が素直に応じるかな? いや、無いね! 妹は頑固だからね!』

「ふふっ、そうだな。正解など探した所で、結局は結果論なのだろう。だがあの時の私の行動が冷静ではなかった事は事実だ。焦りがあった事は事実だ。そこは反省するしかない」


 例え結果がどうであろうと、どう動くのが正解であったのだろうと、そこは関係が無い。

 まず自分が正解を引く為の行動を取ろうと、そうい冷静さが無かった。

 冷静にとった行動が正解を引けるかは解らないが、判断力が無かった事は確かだ。


 故にどうなるかは結果論だとしても、結果を引き出せる努力を怠っていたと考えていると。


「・・・うん? この国では、呪いの道具の公表が危険だという話は無いんだな?」

「無くは、無かった。母が倒れてからは少し増えていた。ただ口にするのは大体が若い者達で、中年以上の者達はそうでもなかったが・・・それも、母の強さを知るが故だったろう。もし私の弱さを知っていれば、もっと大きな声が上がっていたかもしれんな」


 この国ですら、その声は有ったのか。力を捨てるべきだと問う声が。

 だが国の在り方から、その声は中々大きくならなかったと。

 それはこの国だけの話で、他国ではそうはならなかった訳だ。 


 これは、少々どころか、かなり意図的な物を感じる話だな。

 奴等の狙いの先は、国民感情の悪化による呪いの道具の破棄か?

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