第1563話、近隣の事件

「お前、その話を知っていた上で、シオを勧誘しようと考えていたのか」

『おうおうおう、どうなんだい! ハッキリして貰おうか!』


 俺を殺すべきだという主張が、この周辺でどれだけ効果が有るのかは知らん。

 だがその話を知っているという事は、精霊付きが面倒になる事が解っているはず。

 国の為を想うなら、不干渉で済ませるのが普通だ。そこまで精霊の力が魅力的だったか。


 だがそんな俺の問いに、新女王は若干嫌そうな顔を見せる。


「むしろ貴殿の態度を考えれば、貴殿のせいでシオ殿が誤解を受けて排除されそうになっていると思ったんだよ私は。だから手を貸せないかと思っていた。結局の所貴殿たちの関係を誤解していた訳だが、私は本気で貴殿等の事を案じていたんだ。このままで良くない、とな」


 そして溜息を吐きながら、俺に告げた説教と同じ様な事を言い出した。


「アレはただの引き剥がす為の口実ではなく、本気だった訳か」

「当たり前だ。子供が道を違えようとしている。このままではどちらもの為にならないと、そう思ったんだよ、あの時の私はな。勿論欲はあったが、それだけで声をかけた訳ではない」

『成程つまり妹の為を思っていたと。そういう事だね? うんうん、成程続けて?』


 精霊付きの力に魅力を感じたのは事実だが、シオを案じたのも事実と。

 ついでに俺の身も案じており、引き放しはするが追い出すつもりは無かったという所か。

 勿論俺が自由が姿をくらませた場合は、探す事をしなかっただろうがな。


「せめて貴殿が真面に受け答えをしてくれたら、そんな誤解はしなかった。と言うのは私の都合な事は承知している。そもそも貴殿の言った通り、最初に仕掛けたのはこちらだ。国内で似た様な事が有ったが故の行動、というのも言い訳に過ぎない事もな。結局は私の焦りだ」


 そういえば、確かそんな事を言っていた気がする。

 魔力を隠して内側に入り暴れる、という事例があったと。

 だからこそ、異常な魔力を隠した俺達を怪しい、と断じたのだったか。


 ・・・少々気になるな。何時頃の話なんだそれは。


「何時頃の話で、その時はどうなったんだ?」

『おっぱらったのー?』

「あの時は母上がまだ何とか戦えた頃だが、それでも割と最近の話だ。それと、そういう事件が他国でも起きていると聞いている。まあ、起きた国は共通項があるのが気になるが」

「共通項?」

『解った! 足が臭い!』

「私の持つ水晶の様な道具を持つ事を、明確に表明している国だ」

『ちがったぁー!』


 水晶の様な。つまりこの周辺には、呪いの道具を当然の様に使う国が複数あるのか?

 となると今まで俺が聞いた常識が覆るぞ。少なくとも辺境領主の言葉と食い違う。


「俺が拠点にしている国では、その手の道具は被害の方がでかいから忌避されると聞いているんだが。この辺りでは雑に使われているのか。それとも制御できる人間が多いのか?」

『そんなにくちゃい人間が沢山いるのー?』

「勿論自由に使えるのは、近隣では我が国ぐらいだ。他国の場合は使った被害の方が大きい。実際事件が起きた国の大体は、街が一つか二つ消し飛んでいる。それでも力は力だ。力をいざとなれば使うと表明する事で、使われる事を嫌がる者達の腰は引ける。普通はな」


 まあ、普通はそうか。戦争をする理由なんてのは、基本は相手の利益を奪う為だ。

 土地を、金を、人を、誇りを、何が欲しいのであれ、結局は利益を求めている。

 だが呪いの道具を使われてしまえば何もかもが意味がなくなるだろう。


 敵も味方も無差別に死に、最悪は土地すらも死に、何一つ良い事が無い。

 だからいざとなれば自爆も厭わないと言われれば、確かに普通は躊躇するか。


「それでも、仕掛けて来た奴等が居たと。何処の誰が仕掛けて来たのかは解っているのか?」

『犯人はどいつだ! 兄が探してこようか! この名探偵が!』


 お前は迷探偵の方だろうが、と言いたいがそうでもないのが腹立つな。

 コイツが全力で人海戦術を行えば、一人で大量の情報を集められるだろうからな。


「全く分からない。どの国も何もつかめていない。何せ持ち主は死んでいるし、暴れた街は吹き飛んでいるし、肝心の道具も最後は吹き飛んだらしいからな」

「道具が、吹き飛んだ?」

『バーンって?』

「ああ。跡形もないそうだ。まるで最初から自爆させるつもりだったかのようにな。だがそんな事件が複数個所で起こっている。となれば、同一犯の仕業なのは確かだろうな」


 それは確かに、同一犯としか思えんし、何かしらの意図を感じるな。

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