第1562話、参考にした物は

「つ、疲れた・・・!」


 葬儀が無事に終わり、新女王がやっと膝を崩せるとばかりにベッドに倒れ込んだ。

 新女王の家は元々使っていた家をそのまま使うらしく、屋敷の移動は無いらしい。

 なので慣れた部屋であり、その部屋には詳細を話せる人間しか居ない。


「ご立派でした、陛下」

「お疲れさまでした、お姉様」


 つまりは新女王と、昔からお付きの女中と、妹王女だ。

 いや、姉が女王になった以上、もう王女では無いのだが。

 ただ新女王に子供がまだ居ない以上、スベアとしての価値は高い。


 とはいえだ、あれだけの事を成したとされた女王の変わりが、簡単に利くとは思えんがな。

 現状はまだハリボテではあるが、英雄と祭り上げられてしまった女王の後ではな。

 それと俺が居ても気にしないのは、真実を知っているからという事だろう。


「母上が前日になって無茶を言い出すから・・・試す事も出来ないので、いきなり本番になってしまったし、思った以上に消耗した・・・」


 どうやら前女王の巨大化は、女王の思い付きで無茶振りだったらしい。

 それに真面目に応える辺りが、前女王と違い律儀と言うべきか。

 逆に前女王は、肉体を亡くした事で欲望が前に出やすくなってないか。


「ならば、俺に対する感謝だの何だのと適当な事も、アイツが勝手に言い出した事か?」

『妹への感謝は幾らしても良いからね。うんうん。あ、兄への敬愛もよろしくぅ!』


 俺への扱いに関しては、既に王女が悪くならないように配慮していた。

 俺が王女を殺そうとしたのではなく、王女の我が儘に付き合ったのだと。

 この時点で国民は俺に対する悪感情は少なかった。勿論少ないだけだが。


 動言葉を言い繕った所で、直接女王を俺が殺した事実は変えようがない。

 その部分が気に食わないと思う人間は、数が少なくとも絶対に居る。

 人間はそういう物だ。たとえ正論でも納得出来ない事だって有るからな。


 だが女王が肉体を無くしたものの存在する事が、俺のおかげだと聞けば。

 アレは必要な事だったのではと、無理矢理にでも納得する者も出て来る。


「いや、事前に母上から聞いていたし、母上の言葉は嘘ではない。貴殿が居たからこそ、試してみようと思ったらしいからな。貴殿との出会いが無ければこの結果は無かった」

「俺が居たから?」

『成程、全て解った。解ったよ。兄は解ったけど、皆が解るように説明してあげてね』


 絶対に何も解っていない。解っているならコイツは絶対に自分の口で言う。

 精霊の言葉が聞こえていた訳では無いだろうが、新女王は俺の問い返しに頷いてから続けた。


「貴殿のあの巨大なネズミ。アレを見て、もしかしたら行けるのではと思ったらしい。どう見ても生物にしか見えない、魔術で作り出されたとは全く思えない特殊な魔術を見て」

「アレか・・・」

『ふふ、プイプイの事だね。兄は全て解っていたよ。ふふっ』

「にーちゃ、すごーい」

『ふはははっ、そうだろうそうだろう! 兄をもっと尊敬して良いんだよ! ふぅははー!』


 成程確かに、同じではないが、似てるとは言える。

 前女王が顕現している間、俺もそう思っていたからな。


 まるで生きて存在する様な現実感のある、だが実際には存在しない生物。

 魔力で、魔術で作り出した疑似生命体の様な、自己意思のある個体を出す。

 何より操作が不要になる利点は、まさしく同じと言えるだろう。


 まあ問題は自由にさせると、何をするか解らないという部分では有るが。

 モルモットは自由に歩き回って草を食むし、前女王は無駄に戦場へ駆け出しそうだ。


「だから、貴殿のおかげである事は嘘では無いんだ。貴殿が居たから、水晶の中とは言え母上は健在だと言える。私も未だ未熟では有るが成長出来た。母上が穏やかに亡くなっていれば、こんな結果は無かっただろう。問題もありはしたが、やはり貴殿には感謝しかない」


 結果論だ。ただ結果が良かったから、お前がそう思うだけだ。

 実際は前に俺が言った通り、足掻いた本人達の努力が無ければ成りはしない。

 だがそれでも、そんな事は承知の上で、目の前の新女王は続ける。


「だから、何が有ろうと我が国は、貴殿の味方だ。歴代女王に、母上に、私の誇りにかけてこの場で誓おう。貴殿を、精霊付きを排すると誰かが言うなれば、私は全力で貴殿の力になろう」


 世界の敵になろうとも、俺の味方であり続けると。

 ・・・やはり、その話を知らん訳が無いか。

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