第1561話、葬儀?

 自分の調子の確認と訓練に半日使い、残りはたっぷりと休息に当てた。

 食事もしっかりと食べ、睡眠もゆっくりと取り、久々に穏やかな時間に感じる。

 本来はこの街に来て一日目で、この感覚で休んで直ぐに出発だったはずなんだが。


 まあ今更嘆いても仕方ない。事が片付いただけでも良しと仕様。

 残念な事を何か上げるとすれば、水晶の魔力弾を真似できない事か。

 アレが真似できれば戦術が広がるんだがな。


 威力が弱くて良いなら、単純な衝撃に変える事は出来る。

 精霊共が良く使うアレだ。割と雑に使えなくもない。

 だがアレは、精霊共にとっては『加減』の為の技なのだろう。


 俺が使うと魔力の消費量に見合った威力が出ない。

 それでは不意打ちで驚かせる以外、使い道は見えてこない。

 勿論雑魚どもを吹き飛ばすには使えるが、強者に使える技が欲しいんだ。


「・・・となると、モルモットに行きつくのが、何だか悔しいな」


 今回の戦闘でも思ったが、やはりあの魔術は異常に使い勝手が良すぎる。

 発生を気取られず、わざと気取らせて不意を打つ事も出来、何より発生場所を選ばない。

 地上でも空中でも関係無く出せるし、何なら空中からそのまま体当たりでも良い。


 消滅させる為には殺すしかなく、だが致命を狙うにも急所を狙う必要がある。

 しかも威力が要る。適当な威力ではモルモットの防御を貫通出来ない。

 それに巨大な相手と戦う際に、質量で抑える事にも使える魔術だ。


 何故俺がこんな事を思い返しているかと言えば、目の前で起きている事が原因だ。


『民よ、私の死を嘆かないで欲しい。私はこの通り、この国と、娘と共にある』


 女王がその時の俺のモルモットの様に、魔術で顕現して民に向けて語っている。

 しかも通常のサイズではなく、俺がモルモットにした様に巨大化して。

 そも分王女の負担は増えているが、脂汗をかきながらも平然とした顔を作っている。


 よくこの三日でそこまで仕上げたものだ。むしろ仕上げる為に三日使ったのか?

 とはいえこれは、戦闘には耐えられないと思うがな。アレも若干張りぼてだ。

 それでも魔術師が束になっても足りるか怪しい魔力量、というのは間違いないが。


 何にしても、自分の葬儀で自分が出て来て参列者に語るなど、何だこの光景は。

 最初女王が顕現した時など、魔力の圧で気絶者が出た。

 当たり前だ。呪いの魔力の圧は、殺意が乗ってなくても常人にはきつい。


 だが事前に通達を出していた者がいたのか、混乱は長く続かなかった。

 むしろ女王の存在の圧は、それだけの力を持つ守護者という認識になった様だ。


『この様な偉業を成し得たのは、歴代でただ一人。どうか皆、新たな英雄を、新女王を旗印に盛り立てて行って欲しい。娘の事をどうか、お願いします。前女王としての、最後の願いです』


 更にはここぞとばかりに、娘が自分より凄いんだという事に仕立て上げやがった。

 この偉業を成したのは自分ではなく、娘が居たから出来たのだと。

 自分は歴代の女王と何一つ変わらず、本来はそのまま朽ちて逝くはずだったと。


 これであの娘の女王の座は安泰だろうな。兵士共も誰一人、その力を疑いはすまい。

 例え疑った所で何も出来ん。文官共も下らん心配よりも、国を回す方に集中するだろうよ。


『ただ娘の才の開花は、精霊様と精霊付き様の手助けが有ったからこそでしょう。皆、彼女に最大限の感謝を。我らが英雄を目覚めさせてくれた、国を救って下さった恩人に・・・感謝を』


 そして最後に女王は、聖母のような笑みを見せながら、俺に視線を向けてから祈る動きをした。

 兵士も文官も、きっと城の外の民も、皆が同じ様に祈りの態勢になっているのだろう。

 祈っていないのは王女ぐらいだ。まあ制御に必死なんだとは思うが。


『では皆、また、いつか』


 女王は最後にニッコリと微笑み、霧の様に消えて行った。

 そうなれば当然次に視線が集まるのは棺・・・ではなく王女の方だ。

 女王だったものが水晶に吸い込まれていくからな。どうしても視線が誘導される。


 この辺りは明確に弱点に見えるが、わざとの可能性もあるし、どうなんだろうな。


「ふふっ、空の棺では少々葬儀の意味を問いたくもなるが、生前の母上との別れという区切りを付けようか。皆、別れの前に最後に祈りを捧げよ」


 王女は何て事無い風を装って告げるが、足がプルプル震えている。結構限界近い。

 ただ祈りは膝をついてやる様なので、それで少し休憩する算段なんだろう。

 立てなくならないと良いがな。その場合はどうやって誤魔化すのか気になるが。


「・・・まあ、一応祈ってやる。貴様の死後を。精々我が儘に生きると良い」


 そうして俺も、奴のこれからを祈ってやった。

 死にゆく旅立ちにではなく、新しい生と信念が折れない事を。

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