第1560話、馬鹿だから
「だが、ミク殿の魔力量なら数を放つ事が出来るはずだ。たとえ母上の防御を貫けずとも、攻撃を減衰させる事も多少は出来たはずだし、防御に力を割かせる手段としては有効だと思うが」
そんな事は解っている。俺の魔力は無限に近い。ならば数を撃てば多少は有効打になる。
最大出力の一撃を大量に出せば、流石に女王とて無視は出来んだろう。だが。
「狙った所に当たらんと言った。つまりは万が一が起こる可能性が、つまらん事になる可能性が有った。だから出来る限り使わない様にしていた部分もある」
「つまらん事?」
「貴様や街に当たる可能性が有ったという事だ」
『明後日の方に飛んで行くもんねー?』
女王にとって一番大事な物は娘達だ。だから狙われたら確実に娘を守る。
勿論俺達の戦いは殺し合いで、ならば本来はどんな手でも使って勝つべきだ。
意識配分を増やさせる事で、何かしらの隙を生ませる事にはなるかもしれない。だが。
「あれは俺達の殺し合いだ。ならば俺達だけで終わらせるべきだ。他は関係無い。そんな下らん事をするつもりは無い。死ぬのは、俺か女王の、どちらかだ」
奴はシオを狙わなかった。ヨイチにも手を出さなかった。俺だけを相手にした。
ならば俺とて相手にするべきは女王であり、他に被害を出すべきではない。
卑怯、だまし討ちは上等だ。だが、殺すべきでない相手を事すのは違う。
女王が守れなければ、俺は殺し合いの相手以外を殺す事になる。
敵意外の存在を殺す事になる。ただ理不尽に意味も無く殺す事になる。
それは俺が不愉快だ。俺はそこまで無差別に殺すつもりは無い。
周囲の事を一切気にしないで良い戦闘なら、初手で多少は使っていただろうがな。
そしてそれはお互い様だ。奴も娘達を気にして、使う攻撃と立ち位置を選んでいた。
ならばその条件その物は五分だ。使わない俺が不利だったとは思わん。
「・・・貴殿の事を優しい子だと母上が言っていた理由が、今良く解った気がするよ」
「はっ、優しい訳じゃない。俺は自分が不愉快になりたくなかっただけだ」
『妹ってば照れ隠しー?』
照れてないし隠してもいない。本心からそう思っている。
俺達の戦いは俺達だけのものだ。俺達にとっての殺し合いだ。
それ以外の下らない感情が混ざってしまえば、終わった後に苛つくだけだ。
俺達は全力で、同じ条件で、真剣に殺し合った。だからすっきりしたんだ。
勿論兵士が混ざって来るなら殺した。王女達が混ざって来ても殺した。
あくまで戦場に立ったかどうかの違いだ。殺し合いに参加したかどうかの違いだ。
今回は全てを女王が引き受ける形になっていた以上、それを違えるのは俺の主義に反する。
それ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけの、本当にただそれだけの事だ。
「俺達は我が儘を通して、我が儘に暴れたんだ。馬鹿の様にな。それ以外の何でもない」
『時には馬鹿になる事も大事だよ! 同じ馬鹿なら踊れるからね! アソレソレソレ!』
そうだな。お前の言葉を肯定するのは癪だが、俺達は同じく大馬鹿だ。
だから馬鹿らしく、下らんと笑って終われる殺し合いで済ませた。
唯々自分達が気持ち良く在る為だけの、余りにも馬鹿で我が儘な殺し合いだ。
「まあ、さっき言った通り、威力が足りない以上、当たらない攻撃を策の内に組み込むのが面倒だったのも理由だがな。当てようと思えば当てられる、と言うなら別だったが」
至近距離なら確実に当てられるが、それならもう踏み込んで殴る方が良い。
結局の所、使い所が無かった。色々と理由は告げたが、結論はそんな所だ。
「ふっ、そうか・・・そういう事にしておこう」
『そうだね、ふふっ、兄は全てを解っているよ・・・ふふっ』
しておこうも何も、そういう事なんだよ。何を全て解った風な笑顔を見せている。
精霊と似た様な笑顔をするな。思わず殴りたくなるだろうが。脛でも蹴っとくか。
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