第1552話、空腹感

 姉王女に別れを告げた後は、予定通り妹王女に案内され客室へ。

 いや、客室というよりも客用の家ではあるが。

 そこに案内されて間もなく、料理が幾らか運ばれて来た。


 前回の事を踏まえて、出来た端から持って来ているのだろう。


「どうぞ、ごゆっくりお食べになって下さい」


 妹王女はそう告げて礼をすると、女中達に指示を出して消えて行った。

 ただし消えるまでにそれなりに長く指示を出し、人が来るのを待っていたがな。

 おそらく自分の手の者で固めたという所か。自分の指示を聞く人間を。


 馬鹿男や次女の件も考えての行動だろう。馬鹿な事をされても困ると。

 とはいえそれでも馬鹿な真似をする人間は、簡単に抑えきれないとは思うが。

 そこも含めて人選をしたというなら、中々優秀な娘と言える。それよりもだ。


「もぐもぐ・・・不味いな」

「え、シオは、おいしいけど・・・ヨイチは?」

「きゅ? ヨイチも、おいしい」

『兄も美味しいけど、妹、、まさか、舌が・・・!』


 別に料理は不味くない。むしろ普通に美味い。口に出した不味さはそれじゃない。


「違う。幾ら食っても腹に溜まる感覚が無い。どれだけ消耗したんだ俺は」

「なんだー、びっくりしたー」

「きゅっ、ミクねーちゃ、ちから、すごいつかってた。つかれる、しかたない」

『ボ、ボンガボンの癖に、兄より速く妹を慰めるだと・・・!? ば、馬鹿な・・・!』


 元々俺の体は大食いだし、満腹になるにはかなりの量を食う必要がある。

 とはいえ腹に溜まる感覚自体は有るんだ。でなければ腹八分目なども解らん。

 だが今はその感覚は欠片も無く、いくら食べても虚空にでも消えたかの様だ。


「これは、明日は一日眠るかもしれんな・・・」


 体が回復を求めている。兎に角回復に勤めろと訴えている。

 これはもう仕方ないか。女王とやった時点でこうなる覚悟はしていたしな。

 本音を言えばこの国をとっとと出て、本来の目的地に向かいたいんだが。


 そもそも何でただ現在地確認の為に立ち寄った国で、こんなにも消耗しているのか。

 本当に意味が解らない。全部あの馬鹿男が悪い。アイツが居なければここまで疲れてない。


「そう言えば、ヨイチに使った道具の件も、有耶無耶になってしまったな」

「そう、だね・・・ごめんね、みーちゃ」

「きゅぅ・・・」

『良いんじゃよ、妹の妹よ。そなたは全力を尽くしたのじゃ。ほっほっほ。だがボンガボンは反省しろ。海より深く反省しろ。そのまま地中に埋まれ。そして妹を崇めよ』


 シオが謝っているのは、聞き出したかった相手を殺した事だろう。

 俺達を殺した者達を見た王女が、引き渡す相手だったと言っていたからな。

 本来は情報を引き出す為に生かすべきだったが、シオはそれを良しとしなかった。


 苦しませずに殺す。その判断の下、全員を一撃で絶命させている。

 あの時あっさり殺さずに拷問にかけていれば、何かしらの情報が出たかもしれない。

 だがそれは所詮結果論だ。任せたのは俺だし、俺も普通に殺していたと思うしな。


「お前が悪い訳じゃない。何が悪かったと言えば、やはりあの馬鹿男だろうよ」


 結局の所、巻き込まれた連中も後など無かった。どうせ死ぬ存在だった。

 俺達への罠が上手くいったとしても、その後殺される事には変わりない。

 本人達は生き残る最後の手段だと思っていただろうが、そんな訳は無いんだ。


 何せ画策した本人に、生きて帰る気が無かったんだからな。

 そういう意味ではあの馬鹿男は、国の問題点を排除する役目も果たしたと言える。

 勿論評価する気は無いがな。だれがしてやるものかよ。アレは馬鹿男で十分だ。


 失敗を含めた上での行動なら兎も角、失敗したら全て滅ぶから仕方ないなど。

 それは他に選択肢の無い場合の言葉だ。奴はただ選択肢の模索をしなかった馬鹿だ。


「良いから食え。取り敢えず食って寝るぞ。明日は何もしないからな、俺は」


 食ってるのに段々眠気が出て来た。本格的に明日は動けんな。

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