第1553話、回復の朝

「ん・・・うにゅ・・・まぶし・・・」


 窓から入る日の光に眩しさを覚え、ゆっくりと意識が覚醒していく。

 薄く目を開くと日は軽く登っているが、まだ朝と言って良い時間だろう。

 ゆっくりと体を起こし、大きな欠伸をしながら首を傾げる。


「ふあああ・・・あさ・・・? あさ・・・あれ・・・? なんで、あさ・・・・」


 昨日は遅くまで食事をして、その上疲労がたまった上での睡眠だ。

 朝に起きるとは露ほども思っていなかったんだが、意外と起きれるものだ。

 というか、体がかなり軽いな。もしや成長して回復力も高まっているのか?


 有り得なくは無いか。身体能力は確実に上がっている訳だし。

 ただ頭が少し重いのは、睡眠が足りていないのだろうか。

 寝ぼけている自分を自覚する程度には、感覚がぼんやりとしている。


 まあ真夜中に寝て朝に起きたと考えれば、当然と言えるかもしれんが。


「んむ・・・ん、みーちゃ?」


 そこでシオが目を擦りながら起き上がり、周囲の様子を確認する。

 するとヨイチが唐突にむくっと起き上がり、寝ぼけた様子の無い目をシオに向けた。


「おはよ、ねーちゃ」

「んー、おはよ、ヨイチ」


 今まさに起きたかの様に笑顔で挨拶をするヨイチだが、元から起きていたんだろう。

 だが目を覚ましても姉が寝ていたので、起こさない様にそのまま目を瞑っていた。

 そうして暫くそのまま待ち、シオが起きたから体を起こしたんだろうな。


 普段の朝もそれらしい行動が多いし、何処までもシオが優先な奴だ。

 ただシオに挨拶をした後、若干心配そうな視線を俺に向けて来た。


「ミクねーちゃ、おはよ。からだ、だいじょぶ?」

「んー? んー・・・だいじょぶ・・・だいじょぶ・・・うん・・・だいじょぶ・・・」


 コクコクと頷きながらヨイチに答え、痛みが消えていることも確認する。

 穴の開いた部分は傷が塞がっても痛かったんだが、その感覚は欠片も無い。

 むしろ昨日の体のだるさが消えたせいか、随分と体が軽く感じる。


「そか、よかた。ミクねーちゃ、おきないから、シオねーちゃ、しんぱい、してた」

「・・・おきない?」

「きゅっ、ミクねーちゃ、ふつか、おきなかた」


 ・・・ふつか。二日か。それは、成程体が軽い訳だ。頭が少々重い訳だ。

 馬鹿みたいに食った栄養を、二日間回復の為に全力で睡眠に使ったのだろう。

 そして二日も寝ていたせいで、頭が上手く働いていないのだろう。


 若干体がふらつくのもそのせいか。瞼が上手く開かない。

 開けようとしているんだが自然と落ちる。目は覚めているんだがな。


「うっ、しんぱいしたんだよ。でも、おこさないほうがいいって、にーちゃがいうから、おこさなかった。おきて、よかった・・・」


 シオは心底ほっとした顔でそう告げ、視線を精霊へと向ける。

 ベッドの上で気持ち良さそうに眠る精霊は、俺の体調を把握していたのだろう。

 腹が立つが、コイツは俺以上に俺の体の事を解っている節があるからな。


 そこでコンコンとノックの音が響き、シオがパタパタと対応に向かう。

 朝食か何かかと思い眺めていると、やって来たのは姉王女だった。


「シオ殿、おはよう。ミク殿はまだ・・・おお、起きたか」


 ベッドの上に座る俺の姿を見つけ、何処か安堵した顔を見せる王女。

 お前に心配される理由は無いと思うんだがな。親殺しだぞ俺は。


「良かった。本当に。色々あったが、貴殿はこの国にとってはもう恩人の様な物だ。本当に色々と有ったが、冷静に考えれば救われた部分の方が多い。一晩ゆっくり休んでそう思った。だから貴殿が起きないと聞いた時は、少々焦ってしまったよ。礼も言えないのは困ると」


 王女はそう言いながら俺に近づいて来た。何を言っているのかコイツは。

 俺はこの国で騒動しか起こしていない。お前に礼を言われる筋合いは無い。


「なに・・・いってるの・・・みゅぅ・・・わから、ないよ・・・」

「・・・ミク殿?」


 なので素直に答えると、かなり怪訝そうな顔をされた。

 礼を突っぱねられたのだから当然だろうが、俺にとっても当然の答えだ。


「・・・うん、そう、うん・・・やりたいこと、やったの・・・うん・・・うみゅ」


 コクコクと頷きながら自分の意思を伝える俺を見て、王女の眉間の皺が増していく。

 何だ。文句が有るなら言えば良い。俺には一切関係無い話だろうが。

 そう思っていると、王女は視線をシオへと向ける。


「・・・シオ殿、その、もしかしてミク殿は、素はこういう感じなんだろうか」

「ううん、ねぼけてるだけ。みーちゃ、ねぼけてるといつもこう」

「そ、そうか・・・その、何というか、随分と印象が違うな・・・元がアレだと解っているはずなのに、可愛いと思ってしまうのは・・・何か、ちょっと、狡いな・・・」


 知るか。俺に可愛さを振りまいている覚えはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る