第1549話、亡骸の扱いは
民衆を納得させ、様子を見ていた文官を納得させ、大多数の兵士を納得させた。
新たに即位する女王は、だがまだ王女として母の亡骸を抱えながら城へ戻る。
すると城の門の入り口には、あの女中達が並んでいた。
戦闘には女王の面倒を見ていた女中が居り、また面倒かと内心思う。
「・・・お帰りなさいませ、姫様。いえ、女王陛下とお呼びした方が宜しいでしょうか」
だが特に面倒事になる様な発言は無く、ただ粛々と事実を受け入れている様だった。
今のは女王の死を、新たな女王の即位を、けして否定する気の無い発言だ。
それは彼女が先頭に立って発現する事で、女中の総意という意思表示なのだろう。
俺達が戦っている間、この女はこの女で城の中を纏めていたか。
忠誠心だけは、本物だった様だ。いや、忠誠心だけでは無いか。
女王への想いが本物だったからこそ、女王の最後の頼みをしっかり聞いているんだ。
娘を頼むと。娘の為に頼むと。生きて、最後まで生きて足掻いて役に立てと。
「いや、まだ姫で構わん。正式な即位は、流石に母の葬儀が済んでからにしよう」
「畏まりました。陛下の亡骸は・・・姫様が自ら運ばれますか?」
女中は女王の死体に目を向けると、泣きそうな顔に一瞬なった。
だが直ぐに表情を抑え、この後の指示を王女に仰ぐ。
決して自分の意思を優先はしない。同じ失敗はしないと。
これからはこの王女を、新女王を、陛下として崇めていく為に。
それは自分だけの話ではなく、周囲の意識を変えさせる為でもある。
姫の指示に従う、という形を自ら率先して取る事で。
「ああ、頼む。我が儘ですまないが、私に運ばせてくれ」
「我が儘などと、当然の権利で御座いましょう。貴女は、陛下の娘で、後継者で御座います」
本音を言えばこの女中は、女王の亡骸を自分の手で運びたいのだろう。
それだけの感情がある事は、別れの時の姿で解っている。
だが、だからこそ、女王への思いがあるからこそ、娘の邪魔をしない。
女王の娘がそう願うなら、その願いを叶える。それが女王の望みなのだから。
ただその思考は、それはそれで危うい気がするがな。まあ、俺が言う事では無いか。
「では、母上の、寝室に。ああ、ミク殿はどうする。先に休むというなら案内を付け―———」
王女が俺に行動を訊ねるが、突然言葉を切って水晶に目を向ける。
魔力は発していないが、何となく状況は解った。
また女王が俺に何かを伝えたいのだろう。
「―————ミク殿、少しだけ、付き合って貰えないだろうか。頼む」
「・・・・良いだろう。ただし終わったら食事の用意をしろ。腹が減った」
『兄も食べるよ!』
「感謝する。誰か、精霊付き殿の食事の準備をする様に伝えてくれ」
王女は女中に指示を出してから、城の奥へと向かっていく。
向かう先は本人の言っていた通り、女王の寝室なのだろう。
その道中は何人かの女中も付いてきており、先頭に居た女中は当然居る。
おそらく遺体の管理は彼女がするのだろう。少なくとも葬儀が済むまでは。
そうして女王の寝室に辿り着くと、王女が腕の中の母を優しくベッドに横たわらせた。
「母上―————はい、解りました」
「姫様・・・?」
女中達は水晶に向かって喋りかける王女に怪訝な顔を見せる。
だが王女はそれらを無視して、水晶を手に持ったまま女王に近づけた。
すると、女王の体が、突然砂の様に崩れていく。
「っ!? 母上!?」
「お母様!?」
「陛下!!」
それは水晶を近づけた王女も予想外だったのか、全員が驚きの声を上げた。
いや、俺達はただ静かに見ていたので、全員では無いかもしれんが。
ともあれあっという間に女王の体は崩れ去り——————。
「・・・吸い込まれた?」
『吸い取ってたねー。掃除に良さそう!』
水晶の中に、崩れた体が吸い込まれていった。欠片の一つ残らずに。
アレが女王の意図だとすれば、一体何を考えてやったのか。
予想できるとすれば・・・顕現できる素材の確保か?
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