第1550話、一方的な約束
「姫様! 一体何をされたのですか!? 陛下は、陛下の亡骸は一体!?」
「ま、待ってくれ、ちょっと待ってくれ。私にも何が何だか・・・!」
女王の遺体が目の前から消え去った。その事実に女中が大慌てで訊ねる。
だが王女も指示を受けただけだったらしく、慌てて水晶を見詰めていた。
どういう事なのか教えてくれと、懇願の表情になっているのが良く解る。
やはり年相応とでも言うべきか、全てを女王として毅然と振舞うのは無理か。
「は、母上、これ―—————ぐ、う・・・!?」
「お姉様!?」
「姫様!?」
水晶に直接訊ねるべく口を開いた瞬間、水晶から魔力が解き放たれた。
禍々しい呪いの魔力。だがそこに怒りや恨みなどの感情は感じない。
不思議な事に、実に不思議な事に、むしろ歓喜すら感じる。
何とも自己表現が豊かな魔力だ。一体何をするつもりやら。
水晶を持っている王女は突然の魔力解放に冷や汗をかいているが、さて。
「お姉様、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ・・・少し、離れて、いて、くれ・・・うっかり、力を入れると、不味い」
妹が心配で声をかけると、苦しみながらも答える余裕はある様だ。
一瞬視線を水晶に向けてから、集中するように目を瞑る。
すると唯々無駄にばらまかれていた魔力が、一点に収束し始めるのを感じた。
「ぐ―————」
王女は苦しそうに、だが膝は付かず、必死に魔力を纏め上げている様に見える。
そしてある一定量に魔力が達すると、水晶から砂が吹き上がった。
砂は王女が纏めた魔力に絡みつき、段々と明確な形になってゆく。
人の形に、見覚えのある形に、作り上げられていく。
「お、おかあ、様?」
「陛下!?」
そこに現れたのは、当然と言うべきか女王だった。
「老婆の姿じゃないのか」
「みーちゃとたたかってたときのすがた、だね」
「きゅっ」
『泥遊びみたーい』
『汚いわね』
草原で俺と殺し合いをしていた時の、若々しい姿の女王だ。
俺やシオからはそうでも無いが、やはり精霊には汚いらしい。
現れた女王は目を閉じており、その目がゆっくりと開かれる。
「・・・あ、そうよね、服は無理よね・・・これで良いか」
そして最初に口にした言葉は、全裸な自分の状況確認だった。
ベッドシーツを手に取り、体に巻いて仮の服に仕立てている。
「母上・・・先程の事は、この為、ですか・・・?」
「ええ、説明を後にしてごめんなさいね。早めにしないと色々不味そうだったから。よく頑張ったわね。今も結構苦しいでしょう」
「いいえ、全然。今までの私では、この量の力は扱えない・・・母上が、補助を、してくれている、でしょう?」
「少しだけね。でも貴女が居ないとそもそも力が出せないから、これは貴女の力なのよ?」
女王は優しく笑いながら、冷や汗を流す王女の頭を撫でる。
それはただの優しい母に見えるが、俺の目には別の形にも見えている。
禍々しい魔力の、それも膨大な魔力の塊、力の塊だ。
つまり、力を持って自由意思の自己判断で戦える個体。
俺を殆ど圧倒していた女王が、力の塊になって顕現している。
実質二体一・・・いや、水晶の存在も考えれば三体一か。
本体も当然力は使えるし、水晶も慣れれば遠隔で使える事が解った。
その上で勝手に動く女王の存在は、面倒な事この上ないな。
「ふふっ、あんな事を言ったのに、また会っちゃったわね。もう少し、貴女の成長を見守れそうだわ。そう考えると、別れ際の言葉は少し恥ずかしいわね?」
「お母様・・・!」
そして今度は妹の方に声をかけ、嬉しそうにその頭を撫でている。
本当に、何処までも、娘の事が最優先な女だ。
「でも、今日の所はこの辺りで終りにしようかしら。流石に少し辛そうだし、ね」
「す、すみません、母上・・・!」
ただまあ、当の使い手がまだ女王の顕現を自由に出来ない様だ。
力の放出が辛いのか、今にも膝をつきそうな程に消耗している。
こうなると実戦で使えるのは、まだ暫く後だろうな。
「じゃあ、一旦お別れ―————の前に、お嬢さん、名を教えてくれるかしら?」
故に消えようとしていた所で、女王が俺に訊ねて来た。
「知っているだろう」
「ええ、娘から聞いてね。でもね、貴女の口から聞きたいの」
「何の意味が有るのか知らんが、まあ良いだろう。俺はミクだ」
「そう、ありがとう、お嬢さん。私の名はブラヴァンナ。ヴァンナで良いわよ。覚えてくれると嬉しいわ。また―————いつか、全力でやろうぜ、ミク」
そうして女王は手を振って砂になり、水晶に吸い込まれていった。
「はっ、お前の娘に言った通り、二度とごめんだ」
だが当然俺の答えはこれだ。お前の様な強い奴と、道楽でやってられるか。
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