第1539話、性に合わない戦い方

「追撃は出来なかったか」

「けほっ、けほっ・・・そうだよクソッたれ。治癒に回す分も攻撃に使ったから、今治し始めてる所なんだよ。何ですぐ起き上がって来るんだ馬鹿野郎。普通はこの後アタシが悠々止めを刺す所だろうが。攻撃に魔力を注げる様になる前に起き上がるんじゃねえよ」


 さて、これも本当か嘘かどっちか解らんな。だが動けなかったのは事実なのだろう。

 向こうに態々待ってやる理由は無い。俺が倒れたなら、そのまま止めを刺せば良いだけだ。

 とはいえこちらも万全ではないので、今すぐどの程度か試すには少々博打か。


 俺の動きが万全でないと判断したら、当然ながら見逃がさんだろうしな。


「文句を言いたいのは此方の方だ。普通あそこから反撃をするか」

「はっ、年季が違うんだよ、お嬢ちゃん・・・けほっ」


 年季という点で言えば、俺の方が余程上のはずなんだがな。

 我ながら本当に凡人だと思い知る。完全に取ったつもりになっていた。

 その油断を突かれた反撃で、女王しか見ていなかったが故に反応出来なかった。


 最後まで足掻く人間の強さという物を、俺は良く知っているはずなのにな。

 だが、少し様子がおかしい。何だその咳は。何だその苦しみ様は。

 今治しているはずだろう。治っているはずじゃないのか。


「げほっ・・・あ? 血?」


 何で治っているなら、血を吐いている。足が震えている。


「おいおい、何で治らねえんだよ。そろそろ限界か? つっまんねえ終わり方になっちまうなぁおい。どうせならどっちかきっちり殺して終りの方が綺麗だってのによぉ」


 ・・・・限界が来たか。そもそも本来元々が限界ギリギリだったんだ。

 それを無理やり動かしていた訳で、こうなってもおかしくはない。

 だが、だが今か。今なのか。それは無いだろう。こんな終わり方は無いだろう。


「勝ち逃げするつもりか」

「はっ、そうなっちまうなぁ。悔しいか? へっへ」

「してやられたままは性に合わん」

「だろうなぁ。アタシも同じだから良く解るぜ。負けたまんまじゃ終われねえよなぁ。それに、どうせやるなら派手に終わりてえし、こんなんじゃお互い半端だよなぁ」


 女王は戦いの中で死にたいと言っていた。どうせ死ぬならそれが良いと。

 それはこんな半端な終わり方では無いだろう。明確な決着がついた形が望みだろう。


「だからよ・・・これを最後の一発にさせて貰うぜ。こっちの都合で悪いけどよ。この後はどうなろうと恨みっこなしで頼むわ。二発目は撃てねえだろうからな。本当は、嫌いなんだけどな、こういうの。性に合わねえや。けど、仕方ねえ、仕方ねえよなぁ」


 だから、最後の命を燃やす。もう戦闘の継続を考えた動きはしない。

 ただ一発。たった一発。全力の一発。それを放って勝つ。

 どの道死ぬ事は免れない。ならば、勝つ為に戦って死ぬ。最後まで。


 そう宣言して、女王の体に今まで以上の魔力が渦巻く。

 これを打てばもう終わり。それが解るだけの魔力量が。

 本来ならやりたくない、後の生存を完全に捨てた一撃を。


 生き残る気の一切無い一撃を放つんだ。それは性に合わんだろうよ。


「そうだな、仕方ない」


 だから、俺も全力で殺してやる。

 貴様の本意ではない、一撃勝負に付き合ってやる。

 生きる為に戦い続けた女の、死ぬ為の一撃に。


 本来は付き合ってやる義理なんざ無い。何ひとつない。だが、それでも。


「俺が貴様を、殺してやる」

「はっ、ホント、不器用だよな、お嬢ちゃん・・・ありがとな」


 礼など不要だ。俺は俺のやりたい事をやっているだけだからな。貴様と同じで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る