第1538話、刹那の攻防

 奴は腕で頭を防御しているが、俺は最初からそちらを狙っていない。

 狙いは腹。頭を狙ったら最悪外す可能性が有ったからな。


 面積の多い、躱す動作をしても当てられそうな場所の方が良い。

 それに俺達の戦闘においては、どこだろうと当たれば一緒だ。

 弾け飛ぶなら何処だろうと関係無いし、駄目なら何処に当たっても死にはしない。


 その判断の下で振り切った拳が、女王の腹に叩き込まれた。

 まともに入った。直撃だ。手ごたえは十分にある。


「ぐっ、えっ・・・!」


 だが流石の防御力と言うべきか、女王の体はしっかりと原形を留めている。

 小娘とは大違いの頑丈さだ。だがダメージは通った。女王の動きが完全に止まった。

 痛みでくの字に折れ、だが倒れはせずに踏み止まっている。


 一撃では殺せなかったが、攻撃が通るなら死ぬまで殴れば良いだけだ。

 右腕と左足は大半砕けている。治癒は間に合わない。スイッチして右足で踏み込む。


「―————」


 身動きが取れなくなっている女王だが、その目が確りと俺の動きを捉えていた。

 これは一瞬の攻防だ。本当に一瞬。俺達の速さはそう表現するに相応しい。

 そんな一瞬の中、女王の口が動いたのが、視界に入った。


『あまい』

「っ!?」


 声は出ていない。聞こえていない。そもそも声を発せられないのだろう。

 それでも、そう動いていたのが解った。何かを仕掛ける気なのが良く解った。

 だがもう止まれない。全力の踏み込みで殴りかかっているんだ。止まれる訳が無い。


 むしろ止まるな。止まる方が危険だ。このまま全力で打ち抜くしか―———水晶!?


 水晶が割って入って来た。しまった、完全に視界から外していた。

 驚いている内に拳の軌道に水晶が入り込み、女王の体を完全に庇う形になる。

 そうして水晶に拳がぶつかり——————。

 

「―————っ」


 ―————何だ、空? 空を眺めている? 何で、俺は。背中に壁?


 っ、倒れている! 背中の壁は地面だ。あのタイミングで反撃を喰らったのか。

 意識が飛んでいた。それだけの攻撃をまともに食らった。クソ、取ったつもりが取られた。

 魔力砲か何かを喰らったんだろうが、吹き飛ばされたせいか全く記憶に無い。


 いや、今そんな事は良い。早く起き上がれ、追撃が来る。ああくそ、体中が軋む・・・!


「ぐうっ・・・!」


 腕の痛みを無視して地面を叩き、無理矢理体を弾き起こす。

 足も砕けているので凄まじく痛いが、ここで立てなければ死ぬだけだ。

 そう判断して痛みを堪え、だが立ち上がるも女王も膝をついていた。


「くそ、馬鹿みてえに頑丈だな。あれで死なねえのか。直撃しただろうが。死んどけよそこは、人間としてよぉ。げほっ・・・それにあの状況で後ろに飛ぶとか、反応が速すぎるだろうが。つーか何なんだよその服。何で吹き飛んでねえんだ。本当に何から何まで愉快な嬢ちゃんだな」


 成程、記憶には全く無いが、どうやら損傷を軽減しようと努力したらしい。

 甲斐なく意識は飛んでしまったが、直ぐに目が覚めたのはそのおかげか?

 ともあれまた仕切り直しか。勝ったと思ったんだがな。いや、それはお互い様か。


 俺は勝ちを確信していたし、奴も俺に勝ったと思っていた。

 だがお互いに生きている。死んでいない。ならまだ続行だ。

 どちらも死んでさえいなければ、治癒してしまえるんだからな。


 とはいえ俺の全身はガタガタなので、治癒に少し時間を取られるが。

 正直今砲撃を連発されたら、躱せるかは若干怪しい。平気なふりを必死でしている。


「俺は化け物なんでな。そもそも貴様も、俺の全力の拳を喰らって原形を留めている上に、あのワン・ツーに対して防御と反撃を仕掛けて来た。人の事は言えんだろうが」


 この会話の間も女王は腹を抑えて膝をついている。魔力を纏ってはいるが随分と弱弱しい。

 俺の攻撃がそこまで重く、あちらも治癒に時間がかかっているのか、それとも・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る