第1535話、出来れば余り使いたくなかった魔術
「ほらほらほらほら、逃げ回ってばっかりで反撃してこねえのか!? このままだとこれだけで勝負が終わっちまうぞ! まさかそんなつまんねぇ事にはならねえよなぁ!?」
上空で俺に弾幕をばらまきながら、余裕の様子で叫ぶ女王。
だが今になって考えれば、あの態度も俺を油断させる罠な部分もあるのでは。
勿論元の性格があのタイプなのだろうが、アイツは明らかに馬鹿じゃない。
初手も、二合目も、そして先程もそうだが、態度の割に行動が冷静だ。
相手の不意を打ち、相手の手札を探り、その上で決められるときは決めに行く。
強さに驕って、調子に乗って、有利に胡坐をかく人間には出来ない芸当だ。
なのであれを油断と断じる事は出来ず、となれば尚の事対応に困る。
「ぐっ、被弾回数が増えて来たな・・・!」
俺の癖を読み始めて来たのか、段々と魔力弾を当てられる回数が増えて来た。
同時に俺も弾き飛ばされる事に慣れ始め、立て直しも早くなっているが。
嫌な慣れではあるが、それ以外に現状対処法が無い。
死角を潰すなど不可能だし、あの弾幕の中一つを選んで読み切るのも不可能だ。
「・・・まあ、手が無い訳では無いが」
ただ別に俺も、良い様にやられ続けていた訳ではない。
向こうが俺を観察している様に、俺も相手を観察している。
奴の魔力弾の速度は早いが、見えていれば躱せない速さでは無い。
俺の移動を読んで偏差撃ちをされようとも、見てから反応は出来る。
つまりこの距離がギリギリ、倒れた俺に追撃が可能な距離な訳だ。
だから動かない。高度が変わらない。同じ位置に浮いている。
勿論それもブラフな可能性もあるが、そこまで考えていても仕方ない。
騙されたならその時だ。なら今はその前提で打てる手を打つだけだ。
「がっ・・・!」
「ほら追撃いくぞぉ!」
魔力を練り上げた瞬間に吹き飛ばされ、当然追撃が振って来る。
そしてそれも当然予測しているので、岩の魔術で防ぎつつその場を離脱。
「どうした、本当に手がねえのか!? ならこのまま決まっちま―———」
言葉が途切れた。俺の魔術構築を、それに注ぎ込まれる魔力量を見たせいだ。
この時点で油断など欠片が無い事が良く解る。
そして警戒しつつも手は止めない。攻撃の手を緩めるのは愚策だ。
俺がどんな手を打つのか観察しながら、上手くいけばその手自体を潰す為に。
打つ手など無いと、本当に余裕をかましていた訳ではないことが良く解る反応だ。
そして更に驚いて貰うぞ。この手は余り打ちたくなかった一手だからな!
「プイプイッ」
「―————は?」
戦場に気の抜けた鳴き声が響く。ただしその音量は、馬鹿げたほどに大きい。
あの壁の高さは当然、お前の高度ですら額の位置だ。
全力を注いだモルモットだからな。直立すれば更に高くなる。完全に射程範囲だ。
どうやらしっかり驚いてくれたらしいが、その隙は俺との戦いには致命的だぞ。
「っ!」
だが流石と言うべきか、女王は即座に驚きから回復して攻撃態勢を取った。
当然向ける先は俺ではなく、既に自身が射程範囲に居るモルモットに。
アレは発現した時点で地を蹴っているので、回避行動が間に合わないと踏んだようだ。
モルモットの攻撃力は、全力の土の魔術に比べると劣ると言うしかない。
だが劣るだけで弱い訳ではなく、むしろ一点突破にはかなり優秀だ。
何も無い空間から、突然戦闘状態で突っ込んで来るんだからな!
「ぶちかませぇ!」
「舐めんなぁ!」
俺と女王の叫びと同時に、鼓膜を破りそうな衝撃音が響き渡った。
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