第1536話、モルモットの使い方

 モルモットと砲撃の衝突は、残念ながらどちらが勝つかは最初から解っている。

 多少時間がかかるとはいえ、岩の魔術の防御すら砕ける力を持つ魔力砲撃だ。

 総合的には性能の高いモルモットではあるが、防御力は当然岩の魔術に劣る。


 だが無視は出来ないからこそ、女王は攻撃をモルモットに絞った。

 それだけの攻撃力がアレには有る。防御力もある。故に全力で吹き飛ばす為に。

 そうして砲撃はモルモットの頭を打ち貫き、その姿は霧散していく。


「プイプイッ」


 だがそんな物は最初から承知の上だ。先の通り結果を見る前から解っている事だ。

 ならば魔力に物を言わせて即座に二体目を出し、別方向から突撃させる。

 当然これも発現した時点で突進を始めており、だが女王は即座に反応した。


「二度目は通じるかよ!」


 またも耳の痛くなるような衝撃音と共に、モルモットが砲撃で打ち貫かれた。

 魔力の流れを感知してから即座に動いたので、一体目の時よりも対処が早い。

 一度目の様な驚きが無かった分、ギリギリの対処という感じではないな。


 だが砲撃を放った。躱すのではなく、砲撃をだ。

 今のはその気が有れば、躱す事も出来ただろうに。

 躱せなかった? あえて躱さなかった? さてどちらか。


「プイプイ」

「プイッ」

「ちいっ、幾つ出せるんだ!」


 今度は二体同時だ。威力は半減するが、どちらも無視できる魔力量では無い。

 勿論女王の防御力であれば致命にはならない。損傷自体も殆ど与えられんだろう。

 だが俺の目的は、これで奴に損傷を与える事ではない。地に落とす事だ。


 つまり、地面に押し付けられればいい。押し出せればいい。打撃の威力は要らない。

 勿論威力があるに越した事は無いが、結局の所俺の一番の切り札は『拳』だ。

 他の全てはそれをぶち当てる為の手段に他ならない。


 女王もそれが解っているからこそ、咄嗟に全力でモルモットを吹き飛ばしたんだ。

 俺の目的がアレで倒す事ではなく、状況を有利に進める為の一手でしかないと判断して。

 そして解っているからこそ、攻撃力だけを見れば脅威にならない相手に対処の必要がある。


 敵はモルモットじゃない。それを出している俺だ。あくまでそれを忘れていない。


「クソッたれが!」

「プイプイッ」


 それぞれ別方向から飛びかかるモルモットに対し、今度は回避行動を取る女王。

 一体のモルモットの胴を打ち抜いてから、もう一体の攻撃を躱す為に高速で空を飛ぶ。


「プイッ」

「おらぁっ!」


 残ったモルモットは追いかけようとしたが、こちらも胴に砲撃を喰らって霧散した。

 その際に女王の移動は止まっており、それをどう判断するべきか。

 砲撃の瞬間は飛んでいなかった。二度目の砲撃も止まってからだった。


 今見た事だけを信じるなら、砲撃は静止状態でないとできないという事になる。

 だがそんな明確な弱点を、下手に悟られる様な真似をするだろうか。

 安全に回避するなら上に逃げるし、上からモルモットを打ち抜けば良いだけだ。


 代わりに俺に攻撃できなくなるが、それはモルモットが居る限り同じ事だろう。

 アレをかいくぐって俺に攻撃するには、同じ射線上にでも捉えるしかない。

 そして流石の俺もそんな間抜けはしない。全部別方向から行かせるに決まっている。


「プイプイッ」

「プイッ」

「プイプイ」

「本当に幾つ出してくんだよ!」


 今度は三体にして、ギリギリ女王を叩き落せる大きさにした。

 そのままの突進では無理だが、飛びつけば十分届く距離だ。

 モルモットのジャンプなんて、見た目はかなりシュールだがな。


「これならっ!」


 だが流石に三体は魔力を落とし過ぎたか、女王は砲撃ではなく魔力弾に切り替えた。

 空で回避行動を取りつつ散弾をばら撒き、モルモット達は大半をまともに食らってしまう。

 一発一発の威力では致命にならないが、被弾面積が多いせいで勢いを削られてるな。


 全力を振り切った一体ならそれでも突っ込めたが、全員少しずつ血を流して消えて行った。

 本当に、アイツの何処が弱者だ。しっかりと判断して最適解を選んでいやがる。


「どうやらそのネズミは、一番大きな物を複数出す事は出来ねえ見てえだなぁ!」


 三体のモルモットを散弾で殲滅しながら、事実を言い当てる女王。

 とはいえあの女の事だ。これが罠だと思っている可能性もあるだろうが。

 本当は出来ないと見せかけて、全力サイズを二体出せるのではと。


 実際は無理だ。この魔術は全力を注げば一体、全力でなければ複数体出せる魔術。

 故に女王がどれだけ警戒していようとも、それをブラフに使える様な策も無い。


「そうだな、一体しか出せんぞ」


 だが別に構わない。俺の策は、別の所に在るんだからな。


「っ、な!?」


 女王が突然上空に感じた魔力に驚き、慌てて空を見上げる。


 彼女の頭の上に現れたのは、一体のモルモット。魔力を全力で注いだモルモットだ。

 見えなかっただろう。解らなかっただろう。気が付けなかっただろう。

 完璧に使えば出現が解らない魔術なんだよこれは。


「とったぞ」


 あの距離ならもはや突進すら要らん。前足を動かすだけで叩き落せる。

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