第1534話、強者の絡め手
「んじゃまぁ、いくぜぇ!」
「っ!」
今度は遠距離戦闘をせず、また最初の様に突っ込んで来た。
だが速さが段違いだ。最初の一発は、様子を見る為の動きだった事が良く解る。
不味いな。俺より速い。通常の強化では追いつけんな、これは。
とはいえ接近戦を挑んで来ると言うのであれば、それは俺にとって好都合―————。
「なんてな」
「ちっ!」
だが女王は途中で地を強く蹴り、跳躍して俺の頭上高くを通り過ぎていく。
取り敢えずはそのまま受けるつもりで構えていたので、反応出来ずに見送る事になる。
飛んで殴りに行くかと一瞬思ったが、それをやれば不利なのはこっちだ。
おそらく奴は空も飛べる。対して俺は風の魔術で軌道を変えられる程度だ。
それも風で煽られての軌道変化なので、細かい軌道修正は出来ない。
空中戦が出来る魔術が欲しいな。無い物は仕方ないが。
「おらよぉ!」
そして頭上から魔力弾を、広範囲に放って来た。
小娘がシオに殺された時に近い構図だ。
正面からではなく、上から広範囲に面で攻撃する。
防御するべきか、それとも逃げるべきか。
一瞬そんな風に悩んだが、即座に躱す為に地面を蹴る。
範囲攻撃とはいえ、そこまで無茶苦茶な広範囲では無い。
それにシオの面攻撃と違い、奴の攻撃は複数の魔力弾だ。
一撃一撃は確かに重いが、食らった所で死ぬわけではない。
ならば被弾覚悟で抜ける方が、足を止めるよりは安全だ。
何より奴は俺の防御を見ていたんだ。あの岩の魔術を。
なのに今更魔力弾を打つという事は、防御させる目的の可能性が高い。
「ぐあっ!?」
だが範囲攻撃外にまで出た所で、背後から衝撃を受けた。
そのまま吹き飛ばされてゴロゴロと転がり、当然その隙は見逃されない。
思った通り飛べる女王は散弾を放った場所のまま、止めとばかりに追撃を放つ。
「ぐうっ!」
とはいえ俺もそのまま食らっている訳でもなく、岩の魔術で防ぎつつその場を脱出。
頭上から魔力弾が追いかけて来るが、躱しながら周囲を見回す。
今何を喰らった。何故食らった。魔力弾なのは確かだが、何処から飛んで来た。
・・・いや、違う。考えてみれば食らって当然だ。当たり前の事だった。
こいつは砲撃の時何をした。砲撃を細分化して曲げたんだ。
なら魔力弾で何故同じ事が出来ないと思う。出来ないはずが無いだろう。
直線しかないと思わせておいて、軌道を変えて死角から撃って来たんだ。
しかも頭上から俺を見ているから、何処から撃てばいいかは良く解るだろうよ。
「がっ・・・ちいっ・・・! 致命傷では無いが、面倒だな・・・!」
視界には死角が当然出来るし、だからと言って魔力の流れでも躱せない。
俺は魔力を読めはするが、流石にあの大量の魔力弾の中から一発を見極めるのは無理だ。
一撃一撃は致命には程遠いが、順調に体力を削られている感覚がある。
「おりてこーい、とか言わねえのかーい?」
「俺が貴様なら絶対に降りん! 優位なまま戦闘を終わらせる!」
「あっはっは! お嬢ちゃんのそういう所、アタシすげー好きだわ!」
これはルールの有る試合では無い。何でもありの殺し合いだ。
ならば相手が有利な戦い方をしているとして、それを非難して何になる。
時間の無駄だし、そんな事をしている間に打開策を考えるべきだ。
とはいえどうする。アレは俺をこのまま倒そうとしている訳じゃない。
観察されている。俺の癖を、歩調を、判断を。
仕留める一撃を入れる為に、その隙を探されている。
何が才能が無いだ。アイツの何処が弱いのか。
本来は絶対的な力を持ちながら、それに絡め手を混ぜる人間の何処が。
「熱波はやはり通らんか。吹雪も消し飛ばされるだろうな。土の魔術は―—————地中の構築もぶち抜いてきやがった。遠方の土を持って来るのも無理か」
全力の身体強化で殴りかかるにしても、相手が居るのは空中だ。
踏み込みによる威力は無いし、そもそも一直線に飛ぶのでは躱される。
やはり空中を飛ぶ相手に弱いな俺は。さて、本当にどうするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます