第1531話、許せない
俺の吹雪を吹き飛ばした後に女王が取った行動は、叫びとは違い冷静だった。
防御を解かないまま、高速弾を的確に俺へと打ち放って来る。
しかも単発ではなく連続で、散弾ではなく狙いを付けて。
「馬鹿な娘だった!」
そして俺を攻撃して牽制しながら、人の頭ぐらいある魔力の球体を作り出した。
これまでの魔力弾は拳サイズだったが、魔力を詰め込んで大きくなったのだろう。
隙を見せたらあれを放ってくるつもり————おい、幾つ出すんだ。
一つでかいのを仕込むつもりかと思ったら、ボンボン出してきやがる。
こちらも魔術で反撃しようと雪玉をぶつけるが小動もしない。
土の魔術の対処を試みると、使おうとした端から魔力弾で叩き潰された。
細かい物なら使えるが、奴にダメージを与える大きさに構成できない。
こいつ、本当に戦闘に慣れている。魔力の流れをきっちり見てやがる。
「上の娘は幼い頃から聞き分けの良い娘だった! だから子育てを甘く見た自分もわりぃさ! けど何度も何度も直接言って聞かせてたんだ! 姉妹仲良くしろって! 姉に劣等感なんて抱く必要なんてねえって! そもそもこんな物、持たない方がよっぽど幸せだぞってっなぁ!」
猛攻が止まらない。常に走り回っていないと攻撃を躱せない。
だが俺が逃げ回っている間にも、大きめの魔力の塊が増え続ける。
これは躱してばかりだと不味そうだな。何かしらもう少し強めの反撃に移らねば。
ダメージ覚悟で突っ込むか。無様だが、それが何時も通り有効そうな気もする。
魔力弾なら我慢すれば、損傷は受けるが懐に入れるはずだ。
「ああ解ってる! アタシも望んで手に取ったさ! けどな、手に取る理由が違う! アタシはコイツを戦う為の道具としか見てねぇ! コイツを使って国を手中に収めるなんて、そんな考えは欠片も無かった! ただ、力が欲しかった! ただ戦う為だけだ!」
「っ」
そこでぴたりと、女王の攻撃が止まった。だが彼女は先程からこちらを一切見ていない。
視線を向けずとも周囲が見えるのか、自らの行動を悟られない為か。
何にせよ、何か仕掛けて来るのは明白―————次は魔力弾じゃなく軌道の残る砲撃か!
単発で飛んできていた魔力弾から、直線に伸びる魔力砲に切り替えやがった。
あの魔力の球体はその為か。砲撃は全て浮かんでいる球体が起点になっている。
「ちぃ! 躱し難い!」
躱せない程の速さは無いが、今までの様な『弾』による攻撃では無い。
直線に伸びる魔力が暫く残り続け、逃げる先を潰してきやがる。
試しに横からぶん殴ってみたが、こっちが弾かれた上に腕が痺れた。クソが。
これは受けながら突っ込むのは不可能だ。判断を下すのが遅すぎたな。
「だがアイツが欲しかったのは権力だ! 姉に負けない、妹に馬鹿にされない、誰にも文句を言わせない為の権力を得る為に水晶を欲した! そんな目的でコイツを手に取れば、娘が死ぬ事は元から解っていた! だから、だからアイツの為に、後継者から除外したんだ!!」
「っ、分かれ・・・!」
それでも躱し続けていると、俺の逃げる方向に飛ばしていた魔力砲が枝分かれした。
高速で細かい線の攻撃が無数に、全方位から襲ってくる。これは不味い。躱せん。
咄嗟に土の魔術を使ってぶつけに行くが、威力が足りずに多少勢いが減衰した程度だ。
殆ど消えていないし逃げ場も無い。逃げる暇も、もう無い。
「っ!!」
全力で身体強化をしつつ、魔力を体内で爆発させる。
その状態でフードも被って身を丸め、全方位砲撃への衝撃に備える。
「ぐ、うっ・・・!」
一撃一撃が鈍器で殴られたかの様に重い。
それが細かく立て続けに、大量に襲い掛かって来る。
これはこのまま食らい続けたら死にかねん。
「親の心子知らずとは良く言ったもんだよなぁ! 本当に馬鹿な子だった! 思っていた通りに死んじまった! 予想とは違う死に方だったが、結局早いか遅いかだけだ! もしかしたらこの国は終わってたかもなぁ! だからホントはよ、礼を言うべきだって解ってんだよ!」
俺が耐えている間も女王は叫び続けている、心の吐露を力に変える様に。
八つ当たりの為の、怒りの発散の為の攻撃を、絶え間なく続けている。
「本当に出来の悪い娘だった! 妹に馬鹿にされるのも仕方ねえ娘だった! けどな、愛していたんだよ! あんな馬鹿な子でも、愛していたんだ! 娘なんだ! アタシの娘だ!」
涙目になりながら叫ぶそれは、母親だがそれでも母として言えなかった言葉だ。
こいつの『母親』とは、この国の『女王である母親』だ。
背負う者を一切合切投げ捨てた、ただ娘を愛するだけの母親じゃない。
娘を愛していたからこそ、娘の為に、その仮面を被る努力をし続けた。
だから、馬鹿な娘だと、本当の愚かな娘だと、どうしようもない娘だと言う。
「だから、だから―—————アタシはお前に本当に感謝しているし、同じぐらい許せねぇ」
そうして俺が動いていない間に、本命の一撃を、溜めていたらしい砲撃を放って来た。
言葉通りの、許す事への出来ない相手への一撃。殺すつもりの一撃を。
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