第1530話、八つ当たりの相手は
「ちっ、適当に攻撃しても無駄だねこれは・・・」
吹雪に囚われた女王は、先ずは魔力弾を大量にばらまいた。
だが今の女王には若干の制限があり、そのせいで好き勝手に撃ち放てない。
もう少し草原の奥で戦えば別ではあったのだが、少々この国の壁に近すぎる。
先程は外に向けていたからこそ、放った先の事を気にしていなかった。
だが今は視界を塞がれ、自分がどこを向いているかも解らない状態だ。
初撃の雪玉の食らったのが一番原因としては大きいだろう。
アレでよろけてたたらを踏んだ事で、完全に向いている方向を見失った。
「とはいえ、この程度ならただの時間の浪費だよ、お嬢ちゃん」
「そうかもしれんな」
ただし初撃以降の雪玉は完全に防がれており、魔力が障壁を作っている。
一回少し強めに打ちこんでみたが、魔力が削れる様子すら見えなかった。
雪玉じゃ駄目だな。何発入れても奴の障壁を打ち抜けない。
「だが、貴様はそのままだと凍えて死ぬぞ」
「そうかもねぇ。全く、何て厭らしい戦い方をするんだか」
とはいえこの吹雪の中は熱を奪う。体力を奪う。
俺やシオの様に、対策できる様な防寒具が有れば別だ。
だが何も無い女王にとっては、極寒の地に薄着で立っているのと変わらない。
故にコイツに打開策が無いのであれば、つまらないがこのまま決着と―———。
「―————いや、無いな。倒れた所に不意打ちでもするつもりか?」
「おや、ばれちゃった」
舌をペロッと出しながら、一つも悪びれない様子を見せる女王。
コイツ、死んだふりをするつもりだった。対策が無いふりをするつもりだったな。
そうして俺が魔術を解いた所で、思い切り不意打ちをするつもりだったんだろう。
とはいえ不可解な気持ちが残ったろうから、完全に不意を打たれる事は無いと思うが。
「狐女め」
「こんな絡め手を使っておきながら酷い言い草だ。けど不意を打たれる方が悪いだろ? 少なくとも実戦の殺し合いじゃな。不意を打たれた、油断していた、こんなはずじゃなかった、解っていれば、もう一度やれば、そんな主張を死んでから出来るってのか?」
「はっ、正論だ」
「ははっ、そう答えると思った」
お互いに笑みが零れる。そうだ。それが殺し合いだ。殺し合うという事だ。
真剣な殺し合いで、勝敗の言い訳など何の意味も無い。
死ねば終り。そこで終りなんだ。ならばどんな手段を使っても勝ちに行く。
卑怯、だまし討ちなど、そんな物は当然だ。殺し合いにルールなんざ求めるな。
だからこそ、殺される覚悟の無い連中がやる殺しが、腹の底から嫌いなんだ。
あっけなく、情けなく、何の意味もなく無慈悲に殺される覚悟が。
「そう考えれば、この殺し合いは、殺し合いとは若干意味が変わっちまうのが残念かな?」
「残念と思う奴が不意打ちなんぞするか」
「ははっ、これは性分だから仕方ねえよなぁ。ガキの頃からこんな性格なんだよ。娘が可愛くて可愛くて仕方なくて母親を必死に勉強したけど、根っこはどう足掻いても変わらねえや」
「どちらも本気だろうが、貴様は」
俺はコイツの母親の顔を、嘘の仮面だとは思っていない。
勿論騙されたと思った。だがそれは、単にコイツを見誤っただけだ。
こいつはどちらにも本気で生きていただけだ。戦いにも、母親にも、本気だった。
だから全く解らなかったし、違和感など欠片も無かった。
こいつは心底戦闘狂のバカ女で、心底娘を愛する母親なんだ。
「―————ええ、そうね。母親よ。娘の前では母親を、真剣にやっていたわ」
ただ俺の言葉を聞いた女王は、突然雰囲気が元に戻った。
いや、また仮面を被ったと言うべきか。母親の仮面を。
だが何か違和感が有る。仮面を被ったにもかかわらず怖気がする
「娘を愛していた。皆、皆愛していたのよ。皆、みんなよ。だから・・・」
静かに、ただ静かに、娘への愛を語る。心底娘を愛する母親の顔で。
そうしてゆっくりと目を瞑り————。
「娘殺された八つ当たりぐれえ、させてくれるよなぁ!」
水晶だけでなく、女王の殺意すら滲む魔力が一気に放出された。
吹雪の魔術が無理矢理力づくで壊される。何て強引な解除方法だ。
だが八つ当たりか。八つ当たりとは随分と優しい言い方だ。
やっぱりお前は母親だよ。被っていた仮面が本物になってしまっている。
「人を殺した以上、恨まれて当然だ。好きなだけ暴れ倒せ。俺も容赦なく貴様を殺す。娘を殺した罪悪も呵責も俺には無い。だが貴様の恨みだけはしっかりと受け取ってやる」
それが、人を殺すという事だ。他者を殺すという事だ。
だから娘の罪など一切気にするな。存分に恨みを晴らせ。
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