第1529話、手の内はいくつ
女王は水晶から手を離しはしたが、魔力で繋がったままだ。
おそらくは小娘の時と同じ様に、魔力を手足の様に使えるのだろう。
となると女王の足さばきは見るだけ無駄だな。魔力で幾らでも変えられる。
娘は常に水晶を手に持っていた気がするが、アレは使い方を知られない為か?
それとも単純に、娘と女王では能力の質が違うのか。
後者の方が可能性が高いな。女王が言ってた言葉を思い出せばそう思う。
アイツは、水晶が自分を気に入った、と言っていた。
つまり小娘の様に、水晶の方が選んだ存在だという事だ。
とはいえ小娘と目の前の女では、覚悟と目的が随分と違う気がするが。
小娘は力を得て権力を、女王はただひたすらに戦う力を、という感じだ。
「んじゃ、行くよ・・・死ぬんじゃねえぞ、お嬢ちゃん」
「それは此方のセリフだ。まだ始まったばかりなのに唐突に老衰してくれるなよ。こっちはまだ最初の一発を殴り返してないんだ」
「くくっ、そりゃ怖いね」
女王は両腕と両足に大量の魔力を纏い、足を踏み込んで―————突っ込んで来ない。
前のめりに突っ込んでくる様な動きをしながら、腕を振って魔力を飛ばしてきやがった。
広い斬撃の様な形の魔力。実際に斬撃かは兎も角、魔力量はかなりの物だ。
「ちっ!」
てっきりまた突っ込んで来ると思い合わせようとしていたので、変な体勢で無理矢理躱す。
そこにズレてもう一撃、反対の手で同じ威力の魔力斬撃が飛んで来る。
だが流石にそれは見ている。二撃目も当然躱し―————。
「ぐっ!」
腹部に魔力弾を喰らった。あの女、腕の振りはブラフか。
いや、魔力を腕に纏ったのすらブラフだ。
水晶と女王を繋ぐ魔力の間から、高速で魔力弾が飛んできやがった。
しかも斬撃で隠す様に打ってきやがったせいで、気が付くのが遅れて真面に食らった。
勢いよく吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がり、途中で地面を叩いて体を起こす。
腹に穴は開いてないが鈍い痛みだ。魔力循環をしているのに痛みが消え難い。
呪いの力のせいか、それともそれだけの威力だったのか。どちらにせよやられた。
「やーい、ひっかかったー」
「ぐっ、このっ・・・!」
アイツ、追撃して来るどころか挑発してきやがる。完全に楽しんでやがるな。
いや、もう一つの理由もあるのは解っている。女王は力を見せなければならない。
後に残る娘達の為に戦い方を、そして王を崇める兵士達にその力を。
いつの間にやら壁の上に随分と現物人が並んでやがる。
連中の目に映るのは、精霊付きを掌で転がしている女王、という所か。
「さあて、嬢ちゃんも色々見せてくれよ。近づいて殴るだけじゃつまんねえぞ」
「言ってくれるな。俺はそれが一番の得意技で、頼りで、切り札だぞ」
「そいつは良い事を聞いた。なら遠距離からボコらせて貰おうか」
「っ・・・!」
今度は高速弾を散弾の様に飛ばしてきやがった。
しかも密度は馬鹿みたいだし、射程による減衰も無い。
弱点はどれだけ早かろうと、起点が女王で直線的という所か。
全力で横に飛べば避けられるし、それで倒せると思われるのは癪だ。
「じゃあ、こういうのはどうだ」
「っ、吹雪!? なっ、何だこれ!? こんな魔術見た事無いぞ! あだっ!? 雪玉!?」
この魔術は隠匿と攻撃を同時に出来る魔術だ。
視界を奪い、気配を殺し、その上で一方的に攻撃できる。
更にこちらからは貴様の位置が丸見えだ。
雪玉が頭に直撃したはずだが、やはり致命傷にならん様だ。
痛い程度で、だが痛みはあるらしい。つまりダメージは通っている。
女王も一発食らった時点で不味いと思ったのか、魔力を纏って防御をし始めた。
「ちっ、何処が殴るだけなんだい! 器用な技持ってるじゃないか!」
「殴る事しか出来ないとは言ってない」
「声が聞こえているのに位置が解らないとか、随分と厭らしい技だね!」
「こっちからは丸見えだぞ」
一方的に遠距離からボコる、だったか。その状態にさせて貰ったぞ。
さあ、手札を一つ明かしたんだ。貴様も手札を晒して打破してみせろ。
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