第1521話、殺す意味が

「・・・何をされても良い、そういう返答で良いんだな」

『いいのー?』


 魔力を開放し、殺意を乗せて女王に問う。

 今回の件は、なあなあで済ませる様な段階ではない。

 誰かがけじめを付けなければ、収まりの付かない所まで来ている。


 少なくとも俺はそう思っているし、女王の言葉が本音なら同意見だろう。

 だがもしこれで怯むのであれば、何処かに演技が入っていた事になる。


「ええ。それで貴女の気が済んで娘達が助かるなら。今の私に出来る事なんて、それぐらいしか無いもの。もう死にかけの役立たずのお荷物が、少しでも役に立つなら本望よ」


 だが俺の本気の殺意を、魔力を乗せた殺気を受けても、女王は殆ど動じない。

 横で体を支えている王女は一瞬怯んだのに、女王は少し驚いた顔を見せただけだ。

 直ぐに穏やかな笑顔に戻り、有効的な命の使い道を述べた。


 やはり、本気なんだな貴様は。本気で死ぬ気なんだな。娘の為に。国の為に。


「簡単に死ねると思っているのか?」

「苦しめられるなら、体力が持つかが気になる所ね。この通りの体だから、貴女がすっきりする前に死んじゃうんじゃないかしら。それで満足できなかった、と言われるのだけが不安ね」


 即答だ。思考する様子すら無かった。コイツは俺が拷問する事も考慮している。

 何処までも信念を通した、我が儘を通す為の答えを、最初から決めていたんだな。

 それこそ王女が俺を案内する前から。恐らく俺の謝罪への対応を聞いた時点で。


『ねえねえ、妹。つまんなくなってるなら、もうやんなくて良いと思うよー?』


 煩いな。お前は本当に、こういう時だけ真面目な言葉を投げかけて来るな。

 ああくそ。確かにつまらなくなっている。コイツを殺した所で面白くはない。

 唯々けじめを付けさせて終わるだけだ。それで終わるだけだ。


 ならばどうするか。ただ無駄に殺すだけなど、むしろ何故やらなければいけない。

 こいつが死ぬ事を望んでいるなら、尚の事俺が殺すのは自殺幇助と何が違う。


 ・・・いや、ある。俺がすっきりできる、意味が有る手段が、一つある。


「その体は、呪いの影響なんだな?」

「ええ、代々そうなの。私のお婆様も、お母様も、私と同じぐらいの年齢で亡くなったわ」

「成程。ならば少し実験に付き合って貰おうか」


 俺が女王に近づいて行くと、一瞬王女が立ち塞がりそうになった。

 だがすぐに女王が手で制すると、悲しげな顔で壁まで下がっていく。


「それで貴女の気が済むなら。どうぞ。何をするのかしら?」


 女王は制していた手を俺に向け、何でもやれと言って来た。

 その言葉に素直に従い、彼女の手を取って魔力を流し込む。


「あら、これは・・・魔力循環? でも何だか違う様な・・・暖かいし、気持ち良いわね。城の魔術師達が使う魔力循環だと、力が入る所か体力を持っていかれるのだけど」

「やはり、効果が有るのか」

『おー、元気にさせるのー?』


 以前弱り切っている老人に使った時も、随分としゃきっとした様子になった。

 呪いにかかった人間はどうかと思ったが、それでもしっかりと効果があるらしい。

 

「立てるか」

「どうかしら・・・あら、立てるわ。ふふっ、自分の足でしっかり立ったのは久しぶりだわ」

『足ガリガリー。鳥の足の方がまだ肉がありそう・・・鶏のから揚げ食べたい・・・じゅるっ』

「は、母上・・・!」


 女王が自分の足で地に立つと、王女はその姿に泣きそうになっていた。

 弱り切って体を起こす事も出来なかった母が、しっかりと両の足で立っている。

 その事実は、だがしかし俺にとっては関係の無い感傷だ。


「それで、私を元気にさせて、何をしたいの? 助けてくれる訳じゃないのでしょう?」

「っ・・・!」


 そして女王はやはり、甘い考えは持っていない。

 むしろ王女が希望を持ってしまっていた様だ。

 ハッとした様子をみせ、開きかけた口を咄嗟に閉じている。


「そうだ。お前には、やって貰いたい事が有る。それで、全てチャラにしてやる」

「あら、何かしら」

『何々、妹何するのー?』


 ただ殺すだけでは意味が無い。覚悟が決まったコイツを殺しても意味は無い。

 俺が晴れ晴れと終わるには、ただコイツを殺しても何の意味も無いんだ。

 ならば、意味が有れば良い。俺にとって大事な意味が有れば、それが良い。


「水晶を持て。貴様がそれを使え。そして、俺と戦え・・・殺し合え。全力でな」


 本当の使い手と、水晶が全力を発揮できる使い手と、殺し合いをする。

 それが、一番すっきりするやり方だ。きっと、お互いにな。


 どうせ死ぬなら、戦って死ね。貴様が若い頃、それを選択した様にな。

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