第1517話、だってそうだろ
さて、邪魔する者はもう居ない様だ。おそらく王女の一言が止めだろう。
兵士では俺達の相手にならず、そして水晶は此処では使えない。
きっと兵士の中には、そんな事実を知らなかった者も居るのでは。
流石に頭が吹き飛んだ指揮官は知っていたとは思うがな。
ああ、コイツの死も大きいか。目の前で人が弾けたんだ。
そのショックは相当な物だろうし、腰が引けて当然だろう。
そんな兵士や文官、女中達に向けて王女が足を踏み出す。
「事ここに至って出来る事は何も無い。貴様らが何をどう言おうとも、彼女の行く道は止められない。これを事前に止める為に、私は貴様らに協力を求めたのだ。私に責を問う前に、貴様らが何をしたのか良く思い出してから言え。無論私に責が無いとは言わん。王族だからな」
そうだ。王女はギリギリまで足掻き、解決のために奔走した。
だが、だからと言って責任が無いなどという事は無い。
そもそも俺を城に居れた本人であり、そうでなくても責任者の王族だ。
もし自分に何も責任が無いと言うのであれば、コイツは王族である資格が無い。
「故に私は王族の責を全うする為に彼女を案内したのだ。これ以上犠牲が増えない様に。出来るだけ犠牲を減らせる様に。貴様らはそんな私の僅かな願いすら、無様だと嘲笑うつもりか」
「そ、そんな、姫様、我々は、貴女を嘲笑った事など・・・」
「ならば何故私の言葉を真剣に受け止めなかった。何故未熟な小娘の判断と断じた」
「そ、それは・・・」
未熟な子娘か。そうだろうな。此処に居る者達は皆それなりに歳がいっている。
若い者も居なくはないが数名だ。つまり、王のお傍に価値がある、という事だろう。
故に老人は若者を侮る。経験不足を理由に言葉を半端に聞き流す。
勿論老人の人生経験を馬鹿にするつもりは無い。それが意味を成す事だってある。
武王もそのタイプだろうさ。アイツは若い頃を未熟を嘆いていた様だしな。
「何より何故陛下の御意思に従わなかった。貴様らは陛下の意思よりも、崇める自分達の思想を優先したんだ。私と陛下が危機感を共有し、やるべき事を示していたのに、貴様らはその思想の為に従わなかった。この惨状は貴様らの判断の結果だ。貴様らが陛下を殺す。それが現実だ」
「っ・・・!」
ああ、そうか。国王はどうやら意思共有が出来ていたらしい。
自らの足で、動かないかもしれないその足で、俺に会いに来るつもりだったんだ。
ならばそれが叶っていれば、俺はきっと溜息を吐きながら会っていただろう。
碌に体も動かん人間が、責務を果たす為に無理を通すのだからな。
「だがな、私は貴様らに感謝もしている。陛下の世話をしてくれる貴様らに、守ってくれる貴様らに、国の運営に尽力してくれる貴様らに、心から感謝している。貴様らが居なければ、この国は回らないのは事実だ。違え様のない事実だ。だからこそ、私は皆を死なせたくなかった」
「姫様・・・」
そして、それでも、王女は彼らを恨まない。怒りは向けても、それ以上は無い。
それは彼女が現実を知っているからだ。人手が無ければ国は回らんからだ。
たとえこの有事に役に立たずとも、平時は仕事をしている人間達なのだからと。
家臣共はどいつもこいつも、そんな王女の言葉に心を打たれている。
「故に貴様らに責を問うつもりは無い。これは我々王族が背負うべき物だ。何より私は言い訳の仕様が無い程に責を背負うべき身だ。だから退け。ここからは、私達のけじめの時間だ」
そうだな。見方によってはお前が一番悪いしな。そこを誤魔化さない辺り真面目だな。
とはいえコイツ等に責任が無いかと言えば、そんな事は無いと思うんだが。
「姫様・・・! 申し訳ございません・・・!」
王女の言葉で皆が膝をついた。王族に使える家臣として。
責務を全うしようと、失敗を理解しながらも足掻き続けた娘に対して。
その身に責を背負って、民を守る為に犠牲になる覚悟の主へ。
「ぶべっ!?」
なので近くに居た文官を一人ぶん殴った。加減したので顎が砕けた程度だろう。
「・・・はへぇ?」
王女は突然目の前の部下が吹き飛び、理解出来なかったのか間抜けな声を漏らす。
「み、ミク殿、何で今殴ったんだ!?」
「むかついたからだが?」
『ほぼノータイムで殴ったね! 流石妹!』
いやだって、むかつくだろ。相変わらず他人事だぞ、今の反応。
結局お前達が死んだとしても、自分達は生き残るって安堵もあっての態度だぞ。
王を失う苦しみ耐える風でも無かった。感謝は有ったかもしれんが、それが余計に腹立つ。
何処までも自分達の事しか考えていない。自分達の良い様にしか動かない。
あれだけ臣下がどうこうぬかしていたなら、盾になる覚悟ぐらい見せろ。
それが王女の願いに逆らう事でも、それが貴様らの信念じゃないのか。
だというのにあんな物を見たら、普通殴りたくなるだろう。少なくとも俺は殴る。
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