第1086話、隠す事でもない

 村人も落ち着きを取り戻し、どうも商売の話も終わった所だった様で、商隊は村を発つ。

 その辺りで多少シオも落ち着き、同じく落ち着いたペイと談笑を始めている。

 移動する車の中で、子供二人がキャッキャと仲良さげに。


 周囲はそんな二人に暖かいを目を向けており、どうにも空気は緩い。


「そっかぁ、シオちゃんはあれからも色々有ったんだねぇ」

「うっ、いろいろあった」

『色々あったねぇ』


 内容は彼女と別れてからの事で、それは大きな物も小さな物も語られる。


 辺境で訓練を積んだ事。ガキ共と仲良くなった事。訓練を積んだ事。

 組合で良く構って貰う事。牛に会った事。ドレスを着た事。

 他の精霊に会った事。少し喧嘩をした事。


 俺にとってはざっくりと説明できる様な事を、シオは話し足りないとばかりに。

 まだ生まれたばかりの彼女にとって、余りにも膨大な経験を伝えようと。

 とても沢山の出来事があったと。いっぱい話したい事が有ると。


 ただシオが楽しく話していると、商人の一人がこそっと声をかけて来た。


「あの、ミクさん、アレ、話しても大丈夫な事ですか?」

「他国の精霊付きの話か?」

「ええ。その、内容に国家機密が入っている気がするんですが・・・」

「別に良いんじゃないか。俺は口止めもされてないし、されていたとしても知らん。黙っておいてやる義理も無ければ、喋っても黙っても結局なるようにしかならん」

「えぇ・・・?」


 若干引いた様子を見せる商人だが、俺にとってはその程度の事だ。

 当然シオにも口止めはしていないし、話したいなら話せば良いと思っている。

 そもそも俺はそう言った『国や世界の決まり』という物が嫌になった人間だ。


 俺が従って良いと思う内容には従うが、従いたくない事であれば徹底して無視をする。


「精霊付きの実力とか、大分聞いちゃダメな話だと思うんですが・・・というか、この情報を下手な人間が知れば、国が一つ滅びませんか?」

「滅ぶかもしれんな」


 シオは精霊付きの『弱点』を語った。俺達の様な化け物でない精霊付きの弱点を。

 まあ普通は弱点とも言い様も無いもので、その弱点を突けるかは別に話だが。

 ペイはその辺りに気が付いていないが、商人はその答えに辿り着いた様だ。


 要は精霊付きも『簡単に死ぬ人間』であり、精霊付きが死ねば精霊は『過程』を無視すると。

 やろうと思えば殺し様は有る上に、その後の災害は先ず『本人の国』に向かうのだと。

 精霊の理不尽で周囲を理解しないその在りようは、自国こそが危ないんだ。


 ただ愛しい子が殺された。だから暴れる。その場で。気が済むまで。

 勿論殺した相手を殺そうとはするかもしれない。だが守りたい物すら関係無い。

 唯々自分の愛しい存在だけに価値があり、それ以外はどうでも良いのが精霊だと。


 そういうあまり知られていない精霊の生態を、シオはペラペラと語っている。


「だが俺には関係ないし、どうなろうとどうでも良い」

「えぇ・・・?」

「何故疑問に思う。俺は喧嘩を売られたんだぞ。最終的に許しはしたとは言え、前提条件にある物は変わらない。あの国がどうなろうと、それはアイツ等の努力次第だ。俺は知らん」


 俺は別にあの少年少女と完全に和解した訳じゃない。あくまで許しただけだ。

 その在り方が俺の気に食わない形になれば、また殴り込みに行くぐらいの気持ちでな。

 だから別に国の行く末自体には興味が無い。極論滅んだ所で構わない。


「まあ、漏らしたければ漏らせば良いんじゃないか?」

「勘弁して下さい。そんな恐ろしい真似嫌ですよ。何の得にも商売の種にもなりませんし、特になるとしても私では扱い切れませんよ」


 商人は苦笑しながら答え、ただその内容が『損得』な事に俺も苦笑する。

 根っからの商売人だな。勿論俺に喧嘩を売って来た女とは別の形だが。


「相変わらず何と言うか、とんでもない人ですね、貴女は」

「この商隊では、そこまで大きなことをした覚えはないぞ」

「いえいえ、国王陛下とお知り合いで、商会長と直接話せる立場と言う時点で、我々の様な人間にはとんでもない人ですよ?」

「・・・それもそうか」


 本来なら雲の上の人間と知り合いの娘。この時点で普通ならおかしいか。


「おー、ペイチャがんばったねー」

『えらいぞー?』

「えへへ、でね、でね」


 因みにそんな話題の要因になった者達の今の会話は、ペイの仕事の話になっている。

 こっちの内容は穏やかだな。まあペイは普通の子供だから当然だが。

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