第1087話、強く逞しく

「そっか、シオちゃん、これからまた別の国に行くんだ」

「うっ、みーちゃとにーちゃといっしょに」

『そう、妹達と兄が一緒に! 妹達と兄が一緒にね!』

『何故私を見ながら言うのかしら?』


 野営の時間になり、手伝いをしながら相変わらず会話が続く二人。

 小人はシオに放置された件が尾を引いていたのか、一緒という部分に拘る。

 とはいえ魚は『言われずともついて行く』みたいな態度なので効いていないが。


 アイツはシオに直接態度で示されるか、はっきり言われない限りは基本無傷だからな。


「ミクちゃんが一緒なら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」

「うっ、ぺいちゃも、けがしないでね」

『ウムウム、これこそが友情・・・妹は混ざらないの?』


 俺が混ざっても会話が弾まんだろうが。そもそもペイとはそこまで親しくもない。

 俺にとっては道中で偶然出会った人間の域を出ていない。

 勿論彼女の在り方は嫌いじゃないが、それ以上でもそれ以下でもない。


 ペイは偶然が重なっただけで、シャシャが居なければただの普通の子供だ。

 いやまあ、覚悟が決まっている点を考えると、普通とは言い難い所も有ったが。

 とはいえ特別何かが出来る訳でもない、本当にただの普通の子供だ。


 会話がかみ合うとは思えないし、続かない会話を態々始める気も無い。

 そもそもシオと仲良く話しているんだし、無理に俺が混ざる必要もないだろう。


「ミクちゃんも元気で良かった。ミクちゃんが元気じゃない姿が想像できないけど。ふふっ」


 だが俺の考えとは裏腹に、ペイは普通に話を振って来た。

 精霊の言葉が聞こえていた訳では無いだろうが、タイミングの良い事だ。


「別に俺に気を使う必要は無いぞ」

「あははっ、ミクちゃんは変わって無いなぁ」

「別れてからどの程度だと思っている。この程度の短期間で変わる訳が無い」


 俺と再会した人間は『変わらないな』と良く言うが、むしろ変わる方が難しい。

 そういう発言は最低でも2,3年会わなかった相手に向ける言葉だろうに。


「そうかな? シオちゃんは、前よりちょっと、頼りになる雰囲気があるけど。ね?」

「ねー?」

『妹の妹は頑張り屋さんな上に賢いからねー?』

『私の娘だもの』


 頼りになるか。まあ確かに、別れた時とは雲泥の差で強くなっている。

 シオの伸びしろの高さは、それだけで大きな変化と言えるか。

 実力の向上が心情にも表れているのは、確かにあるかもしれないな。


「シオ、みーちゃたすけてあげるの。ふふーん」

『おー、いいぞいいぞー! 妹の妹よかっこいー!』


 胸を張って宣言するシオだが、お前ここに来る時何したか覚えてるか?

 全力を出し過ぎて転がって行ったし、精霊に助けて貰ったからな。

 そんな調子じゃ俺を助けるなんて、まだまだ先の話だろうよ。


「みーちゃ、けっこうさみしがりで、よわいから、シオがまもる。むんっ」

『妹は強がりで泣き虫さんだからねー。妹の妹の方が逞しい!』


 誰が寂しがりで弱くて泣き虫か。今までそんな態度見せた事無いだろうが。

 むしろ泣いていたのはシオだし、寂しがってるのもお前だろうが。

 やはり段々シオの発言が小人寄りになっている。そろそろ修正するべきか?


「ふふっ、そっか。仲が良いのは相変わらずで良かった」

「うっ! なかよし!」

『兄と妹達は永遠の仲良し!』


 お前に永遠について回られる俺は不愉快でしかない。

 そんな風にシオがはしゃぎ倒し、野営を終えた翌朝。

 出発の準備だけは手伝い、片付いた所で別れの挨拶を告げた。


「じゃあな」

「またねー、ぺいちゃ! シャシャ!」

『じゃあねー! ねこー! にゃー!』

「うん、またね、シオちゃん! ミクちゃんも!」

「うにゃー!」


 あれだけ会いたがって、あれだけ楽しんでいた割にはあっさりとした別れだ。

 前回の様な涙は無く、後ろ髪引かれる様な様子もない。


「にへへ、ぺいちゃに、ちゃんとあえた。みーちゃのいったとおり。いきてればあえる。ね」

「・・・ああ、そうだな」


 そうか。お前は今の別れよりも、また次会う事を楽しみにしているのか。

 確かに強くなった。逞しくなったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る