第1085話、困惑の村

「この子供達が・・・?」

「本当に?」

「いやだが・・・」


 取り敢えず一旦村に入って落ち着こうと、商隊頭の男に言われて村の中へ。

 すると当然というべきか、村人達は商人達の説明を聞いても半信半疑だ。

 木々を薙ぎ倒す子供と言われても、納得できないのが当然の道理ではある。


「アンタらが嘘を言うとは思えねぇけどさぁ・・・」

「あの様子見て信じろって言われても・・・なぁ?」

「・・・んー」


 そして護衛なのであろう者達も、猫と遊ぶシオを見て困惑している。

 商人達の事は信用しているが、だからと言って信じられないと。

 ただ一人だけ、シオでも猫でも無い所を見ている。小人の魔力を感じ取ったか?


 因みにシオはまだテンションが上がったままで、猫に乗ってロデオをしている。


「うきゃー!」

「シオちゃん、すごいすごい!」

『うおおおおお兄も負けるものかあああああ! あっ』

「にゃー!」


 あれは前もやっていたし、何なら落ちたシオを回収までしていた。

 うねうねと動く猫のしっぽだが、どうやらある程度自分の意思でも動かせるらしい。

 落ちるシオを尻尾で上手く捕まえ、そのままポスっと背中に戻していた。


「そうでなくても、彼女達は精霊付きですので」


 ただその一言で全員黙ったが。やはりこれが一番話が早いんだな。

 俺としては精霊に頼っていないので、余程面倒な時以外使いたくない説明だ。

 だからこそ自己紹介時も、向こうが知らないなら『精霊付き』とは言わない。


 俺は精霊に頼った生き方はしていないし、これ方もするつもりはない。

 まあ何回か頼んだ事がある以上、余り大きな顔は出来ない自覚も有るがな。


「せ、精霊付きは、機嫌を損ねると街が吹き飛ぶと聞いたんですが・・・」

「だ、だいじょうぶじゃろうか。こ、子供の癇癪で村が無くなるなんて事は・・・」

「お、おち、おちつけ。下手な事さえしなければ、だ、大丈夫だ・・・!」


 俺を疑う言葉は無くなったが、今度は別の騒ぎになってしまったが。

 平和で特に何も無い山奥の辺鄙な村に、災害の様な存在が来たらこうもなるか。

 とはいえ俺に村の事情を慮るつもりはないし、シオは全く気が付いていない。


「うきゃー!」

「うにゃー!」

「あはははっ、シャシャもシオちゃんもがんばれー!」

『兄は、兄はふがいない兄だ・・・!』


 猫との真剣勝負中だしな。まあ、鞍と手綱が付いているので決着つかないと思うが。

 シオの握力で握られている以上、振り落とされるという事はまず無いからな。

 前回落ちたのは手綱がついてなかったからだ。それに何時気が付くのかアイツ等は。


 いや、そんな事はどうでもいいのか。ただただ楽しいだけで良いんだろう。

 等と思い苦笑しながら見ていると、商隊頭が説明を終えてこちらにやって来た。


「とりあえず、村人達は警戒を解いてくれました。精霊付きと言う事で、別の警戒をさせてしまいましたが・・・しかし、またどうしてこんな山奥の村へ? こちらに何か用でも?」

「俺には無かったが、シオにな」

「シオちゃんに?」

「ああ、どうせこの国に来るならペイに会いたいと、珍しく我が儘を言ってな」

「それは、また・・・ふふっ、可愛らしい我が儘ですね」


 商人は楽しげに騒ぐシオ達を見詰め、思わずと言った笑みを漏らす。

 ペイがどういう扱いを受けているのか、これだけで解るというものだ。

 そもそも本人が真面目で努力家なので、特に問題は無いと思っていたが。。


 ただ暫く優しい目をしていた彼は、真剣な表情をを俺に向けて屈んだ。


「・・・ミク様は、支店長の、あの件で?」

「当たらずとも遠からず、と言った所だな」


 周囲に事情が知らない人間がいる事も考え、声を落として訊ねる商隊頭。

 だが俺は一切気にせずに答え、そんな俺の態度に苦笑で返して来る。

 別に俺には隠す必要も無ければ、気にする必要もない事だからな。


「件の事件に絡んだかもしれん連中が、他の所で暴れているかもしれん。俺はその確認に向かう為に・・・いや、元はまた別の用事だったが、ともあれ通り道のついでだ」

「成程。それは随分と・・・我が儘を言われてしまいましたね」

「全くだ」


 この件は俺とシオの今後にも意味がある事で、だがシオにとってはどうでもいい事だ。

 アイツは多分、俺の様な危機感は持っていない。そもそも戦う事はそこまで好きじゃない。

 だからそれより優先する事がある。見知らぬ誰かの暴挙より、会いたい友達が先だ。


 だがそれで良い。むしろそれが良い。我が儘に生きて行けば良い。

 我が儘な俺の妹だと名乗るなら、お前も我が儘に生きて行け。


「相変わらず、優しいお姉さんですね、ミクさん」

「妹の腹に穴が開いても手助けをしない様な、酷な実戦をさせる姉が?」

「必要と思っての事でしょう。そして彼女は無事ここに居る。それが全てでないでしょうか」

「好意的に受け取り過ぎだと思うがな、それは」


 必要だと思ったのは事実だが、無事なのはシオが強いからに過ぎんぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る