第678話、コンビ戦

「ガアアアアアアアアアッッ!」

「っ!」


 少女が吠え、その声には魔力が乗っている。

 そのせいかビリビリと空気が振動して耳が痛む。

 これはもうただの大声じゃない。そういう攻撃だ。


「ぐっ、あっ・・・!」

「いづっ・・・!」


 俺ですら痛いんだ。ブッズとメラネアにはそれ以上の痛みだっただろう。

 ブッズは思わず耳を抑え、だがメラネアは顔を歪めながらも構えた。

 俺も痛みを堪えつつ少女を見つめ、彼女が身に纏う魔力に舌打ちが漏れる。


「俺より多くないか、コイツ」


 魔力循環では無く、魔獣がやる様な魔力を纏うやり方だ。

 だから自己回復能力は低いだろうが、魔力量が尋常じゃない。

 まるで精霊を相手にしている気分・・・いや、実際そうなんだろうな。


『むーん・・・むーん? むーん、なんか、見え難い?』

『だな。それに普通に当てただけじゃ駄目そうだぞ』


 小人が過去二度やってた時の様に、変な唸りを上げながら少女を見ている。

 狐の言葉から察するに、これまでの様に簡単に崩せないという事だろう。


「ガアッ!」

「ちっ!」


 少女が突っ込んで来る瞬間、魔力循環をかけて俺も踏み込む。

 距離がそこまで遠くなかったからか、飛んだ距離はほぼ同じ。


「ギャッ!?」

「ぐうっ!」


 だが俺が突っ込むと思ってなかったのか、相手は俺の頭突きにたたらを踏んだ。

 こっちは額の痛みを堪えながら踏みとどまり、仰け反る少女の胴体を狙って拳を振り抜く。


「ギャン!」


 全力で振り切ったが貫通も爆散もせず、地面にぶつかりそのまま大きく跳ねる。

 クルクルと回って跳ねて行く少女に追撃を—————。


「ガアッ!」

「ぐあっ!?」


 少女が吠えると同時に衝撃に襲われた。これは小人と狐が使ってた技か。

 予備動作は極小の、魔力を瞬間的に衝撃波に変えるあれだ。

 躱す事も防御する暇も無く、衝撃に吹き飛ばされる。


「ミ————!」

「構うな!」


 メラネアは吹き飛ぶ俺に視線を向けかけたが、叫びを聞いて少女に視線を固定する。

 そして俺はそのまま家屋の一つに突っ込んだが、損傷は余り無い。

 魔力循環を全力で使いっぱなしだから、多少の怪我は即座に治るしな。


「ニルス!」

『しゃあねえか!』


 メラネアの叫びに狐が飛びつき、彼女の体に入り込んだ。

 次の瞬間爆発的な魔力が彼女からあふれ出し、姿が狐の獣人の様に変わる。

 彼女達の奥の手。しかも初めて会った時とは魔力量が桁違いだ。


 やはりあの時の制限付きよりも、自分の意思で戦える時の方が強いらしい。


「ガアッ!」


 脅威を感じ取ったのか、少女は着地と同時にメラネアへとびかかる。

 だがそんな直線的な動きでは、あのメラネアを捉えられる訳が無い。

 さらりと受け流した後、打撃を叩きつけながら地面に組み伏せた。


「ギャン!? ッ、ガアアアア!!」


 狐に直接やらせなかったのは、おそらくだが加減して捕える為だろう。

 バタバタと藻掻くが、メラネアの関節技は外せない。

 相当の膂力差が有れば別だが—————。


「ガアッ!」

「ちっ、まあそうなるよな」


 少女は暴れても外せないと悟ったのか、地面を壊す方を選んだ。

 魔力を纏った拳で地面を殴り抜き、衝撃で土が舞い上がる。

 当然二人もそのまま舞い上がり、土煙の中少女が仕掛けた。


「ギャンッ!?」


 だがそれでも響くのは少女の悲鳴。本当にアイツ強すぎるな。

 視界は悪く、足場も悪く、予想外の攻撃にも関わらずカウンターを決めた。

 何が一番恐ろしいかと言えば、一切表情を動かす事無くさらっとやる所か。


 暗殺組織ナンバー1の技量は相変わらずらしい。


「ミクちゃん、ごめん、交代!」

「っ!」


 唐突な彼女の叫びを聞き、理由は聞かずにつっこむ。

 すれ違う際に彼女は獣人化を解き、肩で息をしていた。

 成程、強くなった代わりに前以上に継戦能力が落ちている。


 制限がされていたのは、むしろメラネアを長く戦わせる為だったか。

 とりあえず俺は、カウンターを食らって跳ねる少女へ近づき—————。


「はっ!」

「ガアッ!」


 少女の放つ衝撃波を、全力で魔力循環の身体強化をかけた拳で殴り抜く。

 腕にビリビリと衝撃が走るが、この程度ならなんて事は無い。

 予備動作は少ないが無い訳じゃない。使うと知っていれば対応は出来る。

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