第679話、助ける為に壊す
「ガアッ!」
「ふんっ!」
お互いに拳を振り抜き、けれど少女の拳は俺に届かなかった。
無造作に振り抜いた拳を躱し、胴に思いきり突き入れる。
更に魔力循環によって強化された手甲により、少女が炎に包まれた。
「ギャアアアアアアアアア!! グルガアアアアアア!!」
炎に巻かれて叫びをあげるが、直ぐに咆哮を上げて魔力を放つ。
すると炎は吹き飛ぶ様に消え去り、少し焦げた少女が現れる。
服も吹き飛んでしまって、全裸になってしまった。
「力を使い切れていないな」
膨大な魔力。明らかに俺を越える魔力。精霊に匹敵する魔力だ。
だが動きは俺でも追いつけるし、力も俺とそう変わらない。
つまりこの少女は、自分が持つ力を使いこなせていない。
とはいえその状態で互角の時点で、少女が化け物な事に変わりはないが。
優位性が俺に在るとすれば、俺の方が少し『技』が有る所か。
先程の一撃も、武術を齧った程度の俺の動きで躱せた。
あとは素の身体能力の差だな。多分魔力無しだと俺の方が遥かに上だ。
「グルゥ・・・!
そして少女は俺とメラネア、二人に攻撃が通じなかったせいか足を止めた。
だがそれは悪手だ。足を止めてくれた方が、こっちとしてはやり易い。
即座に吹雪の魔術を構築し、全力で吹雪かせて視界を奪う。
「ギュッ!?」
今のは驚いた声だろうか。それにしても人間とは思えない声だ。
最初の咆哮もそうだが、もしかすると彼女は喋れないのだろうか。
人型はしているが、中身は魔獣の比率が高いのかもしれない。
そうなると理性的な説得は難しい。殺すしか選択肢が無い。
いや、まだ解らん。こいつは俺と違い、精霊が中に入っている。
ならそれを取り出してしまえば、メラネアの様になるかもしれない。
何故俺の時の様に、力だけを埋め込まなかったのかは解らんが。
「ガアッ! ガアアアッ!!」
吹雪で俺を見失い、滅茶苦茶に暴れているな。
だが震えている辺り、寒さを感じない訳ではないらしい。
このまま吹雪で押し切ってしまえるか。それが一番楽なんだが。
「すぅーーーーーーー・・・ガアッ!」
だが少女は一度足を止めると、呼吸を整える様子を見せた。
そして短い咆哮に膨大な魔力を乗せ、吹雪の魔術を吹き飛ばしてしまう。
無茶苦茶だ。だが有効な使い方だ。
「ちっ、魔力量の差はいかんともし難いか」
「グルルルルッ!」
だが直ぐにはかかって来ない。俺の両手を見て警戒している。
魔力循環は使いっぱなしだからな。余程炎に巻かれたのが堪えたらしい。
しかしどうするか。そろそろ周囲が煩い。人が集まる気配がある。
これだけ暴れたら当然と言えば当然か。暫くすれば衛兵も来そうだ。
そうなると人死にが出るな。俺は気にしないが、メラネアが気にするだろう。
「ミクちゃん、あの子の胸、見える?」
「胸?」
「うん、胸の所、気持ち悪い色してるの、解る?」
「・・・微かに、みえる、か?」
メラネアの言葉を聞いて目を凝らすと、微かに何かおかしなものが見えた。
少女の体に埋め込まれている様な、浮いている様な、明らかな異物感。
アレか。精霊達が今まで壊して来た物は。アレを壊せば良いのか。
今まで一度も見えなかったが、俺も精霊に近づいているという事だろうか。
「さっきはあれを壊そうとしたの。でも壊れなかった」
「ならもう殺すしかないか」
精霊と同化したメラネアの力で無理なら、もう殺すしかないだろう。
そう思い魔力循環の制御限界を超え、痛みを覚えながら強化を上げていく。
「み、ミクちゃん、何それ、大丈夫!?」
「問題無い。次で終わらせる」
「あ、ま、まって、まだ手は有るから!」
「それを早く言え」
この状態を保つのは辛いんだ。結論を先に言え。
「さっきは彼女の体を傷つけない様に、そう思ってかなり加減したの。次は彼女の体ごと壊すつもりでやる。だから後の事をお願い。私もニルスも、治癒は余り上手くないから」
「・・・成程。解った。後は任せろ」
メラネアは小さくありがとうと告げて、また獣人化して突っ込んで行く。
恐らくこの一撃で本当に終わるだろう。その後は俺が全力で治療をする。
だがそれでも、彼女は助からないかもしれない。
きっと彼女もそれは解った上で、賭けに出たんだろう。
俺に頼むという事は、つまりは致命傷を与えるという事だろうしな。
ついでに自分でやるのは、微妙な加減をする為だろう。
致命傷は与えるが殺さない様に。狐にそんな微細な加減は多分出来ない。
それでも殺す覚悟はしている。殺したくなくても死なせる覚悟は。
なら俺が言う事は何も無い。やれることをやるだけだ。
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