第675話、久々の再会は懐かしく

「ここは武闘会場か何かか」


 死屍累々。いや、生きてはいるが、倒れ伏す連中を見て補佐が呟く。

 どいつもこいつも態々一言俺に言ってから、正面から殴りかかって来た。

 なので全員手加減はしているが、治療しないと暫く大変だろう。


「ったく・・・おーい、誰かコイツ等運んでやれー」


 補佐が指示を出す前から動き出しては居たが、指示を出すのが大事なんだろう。

 彼らはちょっと雑に運ばれて行き、それを見計らった様に老婆がやって来た。


「わるいね、馬鹿なもんでね、すっきりさせてやってくれて感謝するよ」

「俺はただ喧嘩を買っただけだ」

『兄は見守っていただけだ!』

「ふふっ、そうかい。ミクちゃんは思ったより優しい子だね」

「優しい人間は容赦なく殴らん」

『そう、妹は優しい子だよ!』


 何処の世界に顎を砕き、内臓にダメージを与え、骨を折る優しい子が居るのか。

 俺じゃなくメラネアだったら、多分上手く気絶させて終わってるぞ。

 彼女の技量は遥かに上を行くからな。技勝負じゃ一切勝てる気がしない。


 未だに強化無しなら、負ける可能性あると思ってるしな。

 無強化の速さならアイツは目で追える。つまり対処が出来る。

 体の動きで先読みしてくるから、見えない速度で攻撃しないとどうにもならない。


 まあ力量差から組み技だけは効かないので、そこだけは有利が取れるだろうが。


「それで、もうずいぶん前から金は用意できてただろ」

『手が止まってたもんねー?』

「あははっ、バレてたか。ごめんごめん。後々に回すよりも、この場で済ましてしまった方がお互いに良いかと思ってね。目の届かない所でされても困るしさ」


 謝っているが余り悪びれた様子も無く、老婆は下ろした金を俺に差し出す。

 それを受け取ってから鞄に仕舞い、もう用は無いと組合を出る。


「あ、ミクちゃん待ってよ。支部長さん、また。ブッズさん行こう」

「あいよ。てか嬢ちゃん、宿知らないだろー」


 連中の教育に使う為なんかなら、多分俺は婆さんも殴っていただろう。

 ただ今回は婆さんの行動で正解だろう。俺も手間が省けたしな。


 あの手の馬鹿は、この場でやるなと言われたら、後々別の場所で挑んで来る。

 勿論その時も闇討ちじゃなく、堂々と正面から喧嘩を売って来るだろう。

 つまり止めるだけ無駄で、やるならまとめて今やった方が早い訳だ。


「ここの連中は馬鹿が多いな」

「あ、あはは・・・で、でも、良い人達も多いよ?」

「大丈夫大丈夫、今の馬鹿は誉め言葉だから」

『だな』

『妹ちょっと嬉しそうだったもんね』


 メラネアだけが俺の返答に焦るが、実際気分は悪くない。

 ああいう馬鹿共は嫌いじゃない。覚悟も決まっていたしな。

 ただ相手を殴る為に殴るのではなく、やられる覚悟があるのは悪くない。


 むしろ勝つ気が無かったし、それでも挑んで来れるのは良い度胸している。


「むーん、ブッズさん、私よりミクちゃんへの理解度が高い。暫く離れてたのに」

「そんな事言われてもなぁ」

「何で俺に抱き着く。そこはブッズにじゃないのか」

『妹の事大好きなんだね!』

『あっはっは、久々だなこの感じ』


 普通嫉妬する場合は、俺に対してじゃないだろう。ブッズにだろうが。

 ああもう、鞄を持ってるから、抱きつかれると歩き難い。

 お前暫く合わない間に、ちょっと子供っぽくなってないか。


 お姉さんどこ行った。お前が言ってたんだろうが。

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