第672話、とりあえずの選択は

「とはいえどの道俺は、すぐにこの街を去るがな」

『え、何で!? 食事は!?』

「え、そうなの!?」

「随分忙しい話だな。他に急用でも有んのか?」


 俺の言葉にメラネアが驚き、ブッズは少し残念そうな顔を見せる。

 精霊は知らん。勝手に期待してただけだしな。


「別に用がある訳じゃない。むしろ用がないから帰るだけの話だ。俺の目的はお前達に会って、警告をしに来ただけだからな。用が終わった以上帰る。ただそれだけだ」

『えー、ゆっくりしてこーよー。何かたべよーよー』

「用が無いなら、一日ぐらいゆっくりして行けば良いのに」

「そうだぜ、焦る用事が無いなら、急いで帰る必要も無いだろ」


 何でお前ら全員引き留めに来るんだ。確かに急いで帰る理由は無いけど。

 そんな俺達の様子を見ていた老婆は、意外そうな顔で口を開く。


「私はてっきり、三人で旅をしよう、と言う為に来たのかと思ってたんだがね」

「俺は当てのない旅に出るつもりはない」


 俺にとっては辺境が都合が良すぎる。あそこから移動する理由も意味も無い。

 である以上メラネアの旅にはついて行かないし、彼女も辺境には戻って来ない。


「俺達はお互いに目的がある。その目的は、同じ場所では成せないものだ。そうだろう」

「・・・うん、そうだね。私とミクちゃんは、一緒には居られない」


 生きる為に強くなる俺と、生きる目的として旅をする彼女。

 どうしたって同じ場所には居られない。

 下手な同情や、なあなあの仲間意識では、きっと破綻する。


「そうかい・・・お前さん達は生き急いでいる様に見えて、心配になるね」


 そんな俺達の答えを聞いた老婆は、言葉通りの表情を見せる。

 生き急いでいるか。老人からすればそう見えるのかもな。

 だが俺達はやりたい事をやってるだけだ。お互いにな。


 その結果死ぬならそれで良い。その程度の事だ。


「お前さん達の事情も解ったし、どうするつもりかも解ったよ。でもメラネアちゃんには色々と助けて貰ったし、私にできる事があるなら協力するからね」

「あ、ありがとうございます、支部長さん」


 協力ねぇ。出来る事が在るのか疑問になるが。足手纏いな予感しかしない。

 特にメラネアに関していえば、遠くに避難してくれてる方がありがたい、まである。

 だって絶対周囲の被害気にするしな。それが隙になって怪我しかねない。


 ブッズは別に良い。こいつは死ぬ覚悟が出来てるしな。

 そもそもメラネアが放したくないだろう。

 例え離れた方が良いと言っても、事情を理解したブッズが離れるまいよ。


「お嬢ちゃんも、誰も寄せ付けない様な寂しい事を言わないで、もうちょっと仲良くしようじゃないか。私は敵じゃないよ。一応本気で二人の身を案じているんだけどね」

「実際に被害が出た時に、同じ事が言えるなら信用しよう」

『しよー!』

「手厳しいねぇ」


 組合は所詮国とズブズブに関係のある組織だ。そしてこの組合は王都にある。

 国の意向として俺を排除する話になった時、同じ言葉を吐けるのか見ものだな。

 多分被害が出た時、国は俺達を責めるぞ。お前達が居たせいだと。


 特に俺が元居た国の様に脅しをかけていない以上、排斥に動く可能性は高い。


「とはいえ、少し休んで行く程度は良いか」

『お、やったー! 今日は何が食べられるのかなー!』


 だがまあ、一日二日ぐらいは良いか。さっきの説明も端的だったしな。

 これでもし何が事件が起きたら、その時はその時だろうよ。

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