第671話、義務を背負うべきは
「結果、周囲が巻き込まれても知ったこっちゃない、って事かい」
「そうだ。何故俺が気にしなければならない。咎めるなら襲って来た連中を咎めろ」
『そうだぞ! 襲って来た奴が悪いんだぞ!』
どいつもこいつも、何故被害者に責を求める。これも生前から良くある事だ。
悪いのは、悪事を働いた人間だ。勿論周囲への被害を意図的にだすのは悪事だろう。
被害を無視している俺は、そういう意味では確かに悪党なのは否定しない。
だが原因は誰にある。被害を出したのは誰だ。攻撃された人間な訳が無いだろう。
何よりもそんな事を考えるのは俺の仕事じゃない。もっと別の人間の仕事だ。
「俺は衛兵でも、警備兵でも、騎士でも、領主でも国王でもない。ただの俺個人だ。誰かの命を背負う義理は無いし、背負ってやる理由も無い。そんな物を気にするのは、義務を果たさなければいけない人間の仕事だ。周囲の被害を出さない様に等と、そんな事を考える意味が無い」
誰かを守らなければいけない仕事についているなら、義務を果たせと言われるのは解る。
何故被害を出したと、何故守らなかったと、何故周囲を無視したと。
だが俺にそんな義務はない。責任も無い。それは俺の人生を殺すからだ。
「俺は自由に生きる。悪党として好きに生きる。義務は俺を縛り殺す鎖と刃だ。俺はもうそんな物は絶対に背負わないし、背負わせようとする人間は俺の敵だ。敵は全て殺す」
『そうだぞ! 妹は背負うの嫌いなんだぞ! あれ、でも前に鞄背負ってた?』
「—————過激だね」
「そうだ。聞いているんだろう。俺がそういう人間だと。どういう風に聞いているかは知らないがな。そしてこの答えを聞いて、お前は俺に何と応えるんだ。お前は俺の敵か、違うのか」
『妹の敵は兄が許さないぞ! がおー!』
この婆さんは組合の支部長だ。つまりその言葉には責任が伴われる。
もしこれで気に食わない返答をするなら、俺はコイツを敵とみなすだけだ。
当然組合との関係も潰れるだろうが知った事か。俺を殺す敵と作る関係なんざ無い。
だが老婆はそこで、ふっと笑った。少し悲しそうに。
「・・・寂しくないかい、そんな生き方」
「全く無いな。むしろ清々しくて楽しいぐらいだ。俺はもう二度と苦しむ気はない」
『兄が居るから寂しくないよね!』
「・・・そうかい。その年で、何が在ればそんな答えが出るんだろうね」
「さあな」
『多分兄のおかげだね!』
老婆が何を想っていようと、そこまで語ってやる意味も義理も無い。
そもそも同情される理由も無い。今の俺は楽しく生きているんだからな。
本当に楽しいんだ。今の生はとても楽しい。今までで一番。
そう、本心からそう答える俺に対し、老婆は寂しげに笑う。
老婆から見ればきっと、俺の生き方は外れたものなんだろうな。
それは同情か、憐憫か。どちらにせよ見当違いな感情だ。
「そうかい。まあ、お前さんの言う事は解ったよ。実際その通りだろうしね。人を守るのは国や領主、それに雇われた兵士のやる事だ。襲われるお前さんが気にする事じゃないね」
「そうか」
『兄は妹を守る義務があるけどね!』
そんな義務はない。さっきからお前煩い。いちいち合いの手を入れるな。
まあ、老婆が敵に回らないなら良しとしよう。事前情報の影響も大きそうだがな。
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