第670話、ミクの対策
「無いな」
『兄が居るから大丈夫!』
老婆の質問に端的に答える。当然だ。在る訳が無い。
解決策が在ると言うなら、この件を伝える前に実行している。
敢えて言うとすれば、常に警戒するだけの話だ。
すると老婆は少し考える様子を見せてから、メラネアへ目を向けた。
「んー・・・メラネアちゃんは、この後またどこかへ旅立つ予定だったんだよね」
「あ、はい、2,3日には、出ようと思ってました」
という事は、あと少しのんびりしてたら擦れ違いになっていたな。
やはり早めに出て良かった。本音を言うともうちょっとゆっくりしたかったし。
「それ、今は諦めないかい?」
「諦める、ですか」
「ああ。その危険な連中が二人を狙っているとして、一番狙い易いのは二人が自由に移動してる時だろう。そして国の目の届かない所に居る時だ。なら暫く大きな街に居る方が良い」
それは有るかもしれない。連中は隠れながら狙って来ている。
姿を現す事が在るとしても、自分達は逃げる算段を立てている。
今回の戦争がまさしくそうだった。アイツ等はやるだけやって逃げた。
その上で誰も奴らの逃走場所を知らず、結局は連中に国が一つ潰された様なものだ。
勿論今も国は存続しているが、じわじわと弱らされて何も出来ない状況になるだろう。
だが、しかし。
「考えが甘いな、婆さん」
『え、お婆ちゃん甘いの!? 舐めて良い!?』
「・・・どのあたりが甘いのか、教えて貰えないかね」
「連中は街中だろうが何だろうが実験場だ。事実俺は街の中で連中の仕掛けをぶつけられた。呪いの道具を持った馬鹿をな。婆さんはあれの危険性は知ってるのか。その結果どれだけ犠牲が出るのか知ってるのか。アイツ等に常識的な考えは通用しないぞ」
『え、お婆ちゃんの甘い部位の話じゃないの?』
「・・・そうかい」
連中に常識は通用しない。人間的な倫理観も絶対に通用しない。
そんな人間達なら俺を作ってない。メラネアを作ってない。
国を一つ滅ぼす様な真似をしない。
何百人、下手をすれば何千人を使って、連中は呪いの道具を作り出した。
けどそれすら連中にとっては『玩具』に過ぎない。主力じゃない。
連中の主力は、俺達のような存在だ。人知を超えた継戦能力のある化け物だ。
次の一手は、王都を滅ぼせる様な化け物を送り込んでくる可能性も有る。
婆さんの提案にはその覚悟が見えない。気楽に声をかけている様に思えた。
「じゃあお前さん達は、安住の地が無いじゃないか。そんな寂しい事ってあるかい」
「何を勘違いしている。俺は考えが甘いと言っただけだ。そんな事で連中は止まらないと。俺達がどこに住みつくかは俺達の勝手だし、誰が何を言おうが知った事か」
『考えが甘い・・・考えは甘い? 考えってどうやったら食べられるの?』
俺の指摘はあくまで、それは対策にならないと言うだけの話だ。
別にメラネアがこの街に住みたいなら、俺はそれを否定るするつもりはない。
俺だって辺境から出る気は、今のところ全く無いしな。
対策が出来ない事と、俺達が住みたいという話は、そんなもん関係が無い。
「・・・あー・・・成程、本当に連絡通りの子だねぇ」
「ふん、どういう連絡を貰っているのか知らないが、お前達が無駄に無駄な事を繋げ過ぎなだけの事だろう。俺の判断は俺の自由だ。俺は俺のやりたい様に生きる。それだけだ」
『兄も兄のやりたい様に生きる! それだけだー!』
真似をするな真似を。さっきまでとぼけた事言ってたくせに。
「あ、あはは、ミクちゃんは本当に相変わらずだね。なんか安心した」
「なんつーか、心が強いよなぁ、嬢ちゃん」
「俺はただ気にしてないだけだ」
『妹は割と泣き虫だよ?』
『実際妹ちゃんは、細かい事考えてないだけの所あるよな』
人間と精霊の意見が真逆だな。小人の方は無視するとして、狐は正しい。
俺は色々考えるのは面倒だし、簡単に物事を考えて動いている。
そもそも悪党だからな。周囲の事とか考える気が基本的に無い。
勿論巻き込みたくない人間は居る。死なせたくない人間は居る。
だがそいつらが巻き込まれて死んだとして、それで何故俺が悪い。
俺は俺の居たい所に居るだけだ。害をなしてきた連中が悪いだけだ。
「敵は殺す。ただそれだけだ」
対策なんて、たったそれだけで良い。敵は、殺す。
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