第669話、巻き込みと当事者

「・・・ごめんなさい」


 一旦話が終わり、皆が茶を飲み、言葉が途切れた所でメラネアが突然謝罪を告げた。

 誰に何の謝罪だと思っていると、彼女は顔をブッズへ向ける。


「・・・ブッズさんを、巻き込んじゃった」

「あ、俺にかそれ」


 ああ、そういう謝罪か。とはいえ謝られた本人は、一切気にしていないが。

 むしろ自分へだと思ってなかった、と言わんばかりの様子だ。


「巻き込んだって言われても、そもそも俺が嬢ちゃんに関わったのが先だしな。巻き込まれたとはまた違うだろ。この状況が嫌なら、突き放された時に離れてりゃ良かったんだ」

「そういう意味ではそうだな」


 ブッズは巻き込まれた人間だが、それはこいつから関わって来たからだ。

 コイツの言う通り一度突き放しているし、その上での関係が続いている。

 だから俺はこいつに告げたんだ。お前はもう『当事者』だと。


 巻き込まれたというには、最早こいつは足を踏み出し過ぎている。

 ブッズの発言に同意すると、メラネアは泣きそうな顔になった。


「ブッズさんは、いつも優しいよね」

「いや、優しいっていうか、ただ思ったままの事を言ってるだけなんだが・・・」

「でも私が一緒に居て欲しいって言わなかったら、ブッズさんは一人で行動してたでしょ。一緒に居てくれるのは、私が一緒に居て欲しいってお願いしたからでしょ」

「まあ、それは、そうだけどよ・・・」

「ならやっぱり、私が巻き込んだ様なもの、だよ」


 メラネアは相変わらずだな。心優しくもあるし、考え過ぎでもある。

 俺はもうこうなったら、付いて来たお前が悪いと言う。

 勿論本当に悪いのはこの場の誰でも無く、狙って来る連中だがな。


「てい」

「んっ」


 ずずっと茶を飲みながら二人の成り行きを見ていると、ブッズが手刀を入れた。

 躱せる動きだったにも関わらず、メラネアはあえて頭で受けている。


「とりあえず落ち着け。現状悪いのは誰だ。嬢ちゃんじゃねえ。メラネアでもねぇ。勿論俺だと言うつもりもねぇ。二人を狙って来るくそ野郎どもだろうが。なら気にする必要なんざねえよ」

「うっ、で、でも」

「確かに俺はお前に頼まれてここに居る。けどな、それは俺がそれで良いって決めた事だ。お前に頼まれたからって、別に断る事だって出来たんだ。けど断らなかった。俺の意思だ。だからそれを自分のせいなんて言うなら、ちょっとばかし傲慢じゃねえか?」

「う・・・」


 ブッズは一貫して、自分の立ち位置に自分の意思で立っていると告げている。

 もしそれを否定するのであれば、それは彼の覚悟と意志の否定だ。

 メラネアはそれが解らない人間じゃない。これ以上の否定を口にするほど馬鹿じゃない。


 何よりそれを彼女の為に言っている以上、余計に文句なんざ言えないだろう。


「・・・ありがとう、ブッズさん」

「これで礼を言われるのも、また違う気がすっけどなぁ」

「ううん、ありがとう」

「・・・あいよ」


 メラネアはブッズの手を取り、心底嬉しそうに笑う。

 そんな彼女の頭には大きな手が乗り、その手が優しく彼女を撫でる。

 やっぱり気のせいじゃないなこれ。態々口に出して突っ込む気はないが。


 メラネアの奴、ブッズに惚れてるだろう。何がどうなってそうなった。

 いやでも彼女の実年齢を考えると、おかしな関係では無いんだが。

 問題があるとすれば、ブッズの方は子供相手としか見てない所か。


 まあ良いか別に。先の通り俺が口出す事でもない。好きにすれば良い。


「・・・結論が出た所でお三方に聞きたいんだが、何か対策とか有るのかい?」


 そこでずっと黙って聞いていた老婆が、やけに真剣な表情で訊ねて来た。

 完全忘れていたが、そういえば居たんだったな。

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