第668話、告げるべき警告

 支部長の提案で組合の奥の部屋を使う事になり、若干の注目を受けながら奥へ向かう。

 少し歩いた後の一室に案内され、そこは会議に使われそうな感じの部屋だった。

 ボードの様な物と、チョークの様なものがある。いや、実際そうなんだろうな。


「まーまー、寛いでぇね。茶も持ってこさせるからねー」

「茶・・・あの不味いのか」

『え、兄あれやだ』

「不味い? あー、もしかして戦場の薬湯の話かい? アレは素早く作る為だから、普通に作る分にはもうちょっと飲みやすくするよ。時間をかけて作って、少し寝かせておくと良いんだ」

「ふむ?」

『ほんとー?』


 毒のある食べ物の毒抜きみたいなものに近いのだろうか。

 その場で解毒したければ大量の薬を、だが時間をかけるなら少量で行けると。

 少し違う気もするが、大体そんな感じなんだろう。


 精霊は泣くほど嫌だったせいか、物凄く懐疑的な顔だ。


「ホントホント、それを使って別の茶葉で煮だしたりもするし、今出させるのはそういう茶だからね。ちゃんと美味しいよ。口に合わないって事はありそうだけどね」


 終始けらけらと笑う老婆は、よっこらせと座りながらそう説明する。

 それでも精霊はまだ信じられないのか、むーっと言っているが。

 まあ俺はどっちでもいい。むしろ出さなくても構いはしない。


「所で、何でお前は一緒に居るんだ」

「これでもこのババァは一応偉いんだよ。だから困ってるなら力になれるよ?」

「ふん、別に構わんが、聞いて後悔するのは貴様だぞ」

「へーえ。興味深いねぇ」


 今回の件は俺達の都合だが、この国や隣国の面倒の話も含んでいる。

 下手に口に出来る内容じゃない。聞いてしまえば面倒を抱える事になる内容だ。

 とは思ったが、もしかしたら既に何かを知っている可能性も有るか。


 コイツ等も戦争に巻き込まれた国の人間だ。何も調べてないという事は無いだろう。


「むしろ私としては、ブッズちゃんに聞かせて大丈夫な話なのかい、って方が気になるねぇ」

「コイツは当事者だ。聞いておかなきゃならん」

「俺にはマジで身に覚えがねえから、何言われるのか怖ぇんだけど・・・」


 そりゃそうだろう。もし覚えがあるって言い出したら俺が驚く。

 まあこんな事をだらだら話していても仕方ない。本題に入ろう。


「この間――――――」


 そこからは隣国との戦争で起った事と、手に入れた情報を話した。

 呪いの道具と、それを使い捨てとしか思ってない、俺達を作った連中らしき存在の話を。

 途中で出会った変な少年の事は省いた。アイツの事は話すだけ疲れそうで嫌だ。


 そうして全てを語り終えた後、眼の前の少女の空気が変わっている事に気が付く。


「そう、あの人達まだ生きてたんだ。そんな事してたんだ」


 その眼には、確かな怒りと殺意が宿っていた。

 自分への仕打ちへの怒りか、周囲への害への怒りか。

 彼女の場合は両方かもしれない。優しい娘だからな。


「・・・俺が当事者って、そういう事か。まあ、当事者か、今となっちゃ」


 そしてブッズは俺の言いたい事を理解したのか、少し溜息を吐きながらそう呟いた。

 ブッズはメラネアに『近すぎる』存在だ。現状誰よりも一番近い。

 なら彼女に手を出す際に、とても丁度良い存在と言えるだろう。


 一番危険な位置に居る。その認識がしっかりできた様だ。


「知らない方が平和だっただろうが、知っていた方が構えられる。だから伝えに来た」


 奴らの目的が何なのか解らない。俺を作った連中は国への仕返しが目的だった。

 だがそれはあくまで、俺を作った奴の話だ。俺が殺した連中の話だ。

 もしかすると他の連中は違うのかもしれない。だから明確な目的は不明だ。


「奴らが何を目的としてどう動くか解らない以上、俺達は常に狙われていると思った方が良い」


 少なくとも俺は、そう思っている。連中は精霊すら捕まえる技術を持っているんだからな。

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