第667話、再会の友人?

「おや、なーんか空気がいつもと違うねぇ。何かあったのかい?」


 次の行動を少し悩んでいると、若干しわがれた感じの声が組合に響いた。

 雑音に紛れて消えそうな声にも拘らず、はっきりと耳に届く。

 それが気になって視線を向けると、バカでかい剣を背負った老婆が居た。


「あ、あれ、ミクちゃん!?」

『おお、妹ちゃんじゃねーか』


 そしてその少し後ろに見覚えの有る娘も、メラネアも驚いた顔で俺を見ていた。

 狐も何時も通り傍に居て、俺を見て面白そうな笑みを浮かべている、


「・・・ああ、マジで知り合いなんだ・・・あー、くそ、魔力で威圧された時に、びびってないで頭回せば解っただろうに・・・くそー・・・」


 そんな彼女の態度を見た支部長補佐は、顔を手で覆ってしゃがみこむ。

 あの時戦意がある様に見えたが、アレは恐怖を誤魔化す為だったのかもしれないな。

 結果として冷静な思考を消してしまい、精霊付きという可能性が頭に浮かばなかったか。


 老婆はそんな補佐に怪訝な顔を見せた後、俺に視線を動かしてからメラネアに目を向けた。


「あのお嬢ちゃんは知り合いかい、メラネアちゃん」

「あ、はい、その、えっと・・・私の友達、だよ、ね?」

「聞くな。お前の好きな様に呼べばいいだろう」

『もー、妹のひねくれものー。友達だよ! って言えば良いのに』

『ははっ、相変らずだな。まあコッチも相変わらずな訳だけどよ』


 以前は友達だとはっきり言っていた気がするが、何故今回そんなに弱気なんだお前。

 おかげで周囲の目が若干微妙になった。老婆だけはやけに生温い目を向けて来るが。


「そうかいそうかい、メラネアちゃんの友達かい。そりゃあ歓迎するよ」


 婆さんは背負っていた大剣のベルトを外し、ポイっと受付の中に放り投げる。

 今の片手で投げたな。顔は老婆だが、腕はかなり筋肉が付いている。

 それにただ単純に筋量がある訳じゃ無いな。一瞬だが魔力の流れを感じた。


 瞬間的に力を上げる様な、そんな感じの使い方に見えたな。

 魔術師の身体強化に似ているが、制御の仕方が少し違う様に見える。


「支部長! また床が割れるから止めて下さい!」

「ああ、すまんね。耄碌した老体に大剣は重くてさぁ。早く置きたかったんだよ」

「耄碌した老体があんな物片手で投げれる訳無いでしょうが!」

「あっはっは」

「笑って誤魔化さないで下さい!」


 剣を投げた老婆に対し、補佐が支部長と呼んだ。まあそうだろうなとは思った。

 一緒に仕事に行ったというメラネアが居る。その時点で予想は付いていたしな。


「・・・ああ、ブッズが組合に来たのは、メラネアが帰って来る時間を予測してか」

「そうだな。多分そろそろ帰ってくんだろ、と思って見に来た感じだ」

「ふふっ、今日も迎えに来てくれたんだ、ブッズさん。ありがと」

『全くまめだねぇ、この男は』


 ・・・気のせいか。メラネアのブッズを見る目が以前と少し違う気がする。

 ブッズの方は変わった様子は無いが、メラネアは距離感も前より近い様な。

 暫く二人旅だった事を考えれば、変わらない方が不自然ではあるか。


 元々メラネアは一歩引いた性格だしな。気兼ねが無くなったのかもしれない。


『狐ー!』

『おっす』


 精霊はバタバタバタとやけに無駄な動きで近づくと、狐と手をパーンと叩き合った。

 まあ狐は前足だし、テンションも大分低いが。なのに何故か仲良いよなコイツ等。

 手と前足を繋いで踊り出しているし。狐はされるがままなだけだが。


「それでミクちゃん、偶然ここに来た・・・とかじゃ、多分無いよね?」

「話が早いな。お前に伝える事が有って来た」

「ここで話せる事?」

「・・・いや、人のいない所に移動するか」


 流石に内容が内容だ。メラネアの扱いも考えれば、内密な方が良い。


「ブッズ、行くぞ」

「え、俺も聞いて良いのか?」

「むしろお前も当事者だ。今となっちゃな」

「え、何だろ、怖くなって来たんだけど・・・」


 既に別れてたなら兎も角、今もメラネアと共に居る同行者。

 しかもメラネアの態度を見るに、信頼している様子も有る。

 なら完全に巻き込まれる側に居る。話しておいた方が良いだろう。


「そういう事なら奥を使うかい? つもる話も有るだろうし、自由に使えば良いよ」

「あ、ありがとうございます、支部長さん」

「支部長! ちょっと、まだ話は途中ですって!」


 老婆はほぼ補佐の文句を聞き流し、けらけらと笑いながらこっちに混ざって来た。

 アイツ首だ何だと心配していたくせに、それを忘れたかの様な様子だな。


「はいはい、解ったから。やらかした部下の代わりに『ミクちゃん』のご機嫌取って来るよ」

「うぐっ・・・」


 ・・・この老婆、さっき質問は知らないふりか。

 この感じだと、メラネアの事情も軽くは知っていそうだな。

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