第666話、メラネアの所在

「しかしブッズ、お前随分とタイミングよく現れたな」

『ねー?』

「完全に偶然だけどな。何か騒ぎが起きてると思ったら、嬢ちゃんが居ただけだし。殴り合いなら多分放置したけど、武器抜いてる馬鹿が居たからやべえと思って慌てたぜ」


 武器を抜いてなかったら殺さない、という認識はあった訳か。

 逆を言えば、武器を抜けば容赦が無い認識もしっかりあった訳だが。

 実際今回は特別だ。普段なら武器を向けてきた相手に容赦はしない。


 勿論その時の気分次第では、加減をする事も無くは無いが。


「・・・落ち着いて世間話始められても困るんだが」


 そんな風に会話する俺達に対し、男が疲れた顔でそう呟く。


「俺は最初からずっと同じ調子だぞ。お前らが勝手に騒いでいるだけだ」

『兄も一緒に騒ごうか! 兄の踊りを見るが良い!!』


 精霊は何故か踊り出したが、構うともっと煩いので暫く放置だ。


「・・・そうみたいだな・・・はぁ」


 疲れた様子で溜息を吐き、最初に俺にかかってきた男の救助を命じる。

 組合で支払いは請け負うので治癒してやる様にと、職員に指示を出して。

 更に武器を構えていた者達に解散を命じ、怯える魔術師達にも声をかけて行く。


 ただの受付職員かと最初は思ったが、もしやココの支部長なんだろうか。

 男はある程度の指示を出すと、また大きな溜息を吐きながら戻って来る。


「・・・まさかお前が、支部長の言っていた精霊付きだったのか」

「ん? お前が支部長じゃないのか?」

「俺は支部長補佐だ。あの人が居ない時の代わりの責任者だ」

「ああ、成程」


 補佐なのか。副とかじゃないんだな。まあどちらも良い話か。

 辺境では聞いた事が無いが、あの受付嬢がそうなのかもしれない。


「いや、それよりもだ。お前、精霊付きってのは本当なのか」

「そうだが?」

「・・・マジかぁ・・・俺クビかなぁ」

「しるか」


 男が頭を抱えるが、俺には一切関係も興味も無い話だ。

 ブッズが居るからな。こいつに聞いた方が確実に話が早い。


「ブッズ、メラネアとはまだ一緒なのか」

「ん、ああ、まあな。何だかんだ一緒に旅してるな」

「足を引っ張って無いか?」

「ひっでえな・・・と言いたいが、正直引っ張ってるなと思う時がある。それでも一緒について来てくれるなら嬉しいって言われちゃ、別れる訳にゃいかねえだろうよ」

「・・・そうか」


 メラネアには狐が居る。だがそれでもアイツは、傍に人を欲しがっていた。

 勿論狐との約束を思い出して以降は、俺への執着は大分薄れていた。

 だがそれは改めて、自分のやりたい事を見つめ直しただけに過ぎない。


 もし同行を許してくれる人間が居るなら、それは彼女にとっては望ましい事実だろう。

 そしてコイツにとっては、甘える子供を見捨てられはしないという所か。

 最初から子供には甘かったからな、コイツ。


「という事は、メラネアは今この街に居るんだな」

「今は仕事中だ。ちょっとばっかし危ない仕事らしくてな」

「・・・もしや、置いて行かれたのか、お前」

「・・・そうだよ」


 目を逸らしながら答えるブッズ。その様子は何処か不満そうだ。


 旅の同行者としては望まれているが、仕事の同行者としては相変わらずか。

 そこで無理について行くと言わない辺りが、少し関係が変わった感じがするがな。

 以前のブッズなら、足手纏いになっても付いて行くと、そう言いそうだし。


「しかし一人で行ったのかアイツ。まあ狐が傍に居るだろうが」

「いや、ここの支部長と一緒にだな」

「支部長と?」

「ああ。これだけの騒ぎに補佐が指示出して、支部長が出て来ないのはそれが理由だよ」


 成程成程。支部長と組んで仕事をする程に、メラネアは信用されていると。

 むしろ可愛がられているのかもしれない。辺境でもそうだったしな。

 そんな支部長に可愛がられている娘を、得体のしれない奴が探しに来た。


 警戒してしかるべきだろうし、居場所なんざ教える気も無いだろう。


 ただ『精霊付き』の話を知っているという事は、俺の情報を得ているという事。

 多分下手な事はするなと、支部長にでも注意を受けた上で留守を預かっていたんだろう。

 さっきの首どうこうの発言は多分そういう意味だ。まあ俺にはどうでも良い話だが


「何処に行ったか解るか?」

「俺は聞かされてない。言えなくてごめんと謝られた」

「そうか」


 ふむ、ブッズ話を聞く限り、仕事が終われば戻って来るだろう。

 現状秘密の仕事とやらで、メラネアの居場所を知る者は少ないはず。

 だがそんな彼女の足跡を連中が追えるとしたら、絶好の好機じゃ無いだろうか。


 勿論考え過ぎの可能性も高いし、気にする必要も無いかもしれないが。

 ブッズが知らないとしても、支部長補佐の男は知っていそうだが、さてどうする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る