第665話、仲裁?

 周囲の前衛職らしき連中は、全員武器を構えて臨戦態勢。

 ただし室内に居た子供を下がらせ、安全を確保する動きは中々に良いな。

 魔術師連中は止めに入っている人間が多いが、数人は仲間に付き合う様子を見せ始める。


 俺が話しかけた男もそれに近く、やけに汗をかきながらも戦意のある目を俺に向けた。

 誰かが少しでも前に出れば、その瞬間戦闘が始まるだろう。

 勿論俺から仕掛ける気が無い以上、始めるのは連中の誰かになるだろうが。


「ちょっと待ったぁ!!」


 だがそこに、男の声が大きく響いた。緊張した空気を破る大声が。

 視線を向けると、組合の入口の方に見覚えの有る男が立っていた。


「ブッズか」

『おー、久しぶりー。元気ー?』


 アイツがここに居るという事は、まだメラネアと一緒に居たんだな。

 それともこの街で別れたのか。どちらにせよ話の解る奴が現れた。


「全員武器をおろせ! 素手なら兎も角、武器を持ってかかって行ったら殺されるぞ! 勝てる相手だと思うな! 死にたくなかったら止めろ!」


 ブッズはズカズカと歩を進めながら叫び、そして俺の傍に寄って来る。

 大分慌てた様子で叫ぶ彼の姿に、誰もが動揺を見せていた。

 そうして彼は俺の目の前に立つと、大きな溜息を吐く。


「殴り合いなら兎も角武器抜くって、一体何が有ったんだよ・・・」

「勝手に連中が勘違いしただけだ」

『兄は良く解んなかったー』

「勘違いだって解ってるなら、説明してやれば良いだろうに」

「話を聞く気が無い相手に、何故俺が態々説明してやらなきゃいけない。殴りかかって来るなら殴り飛ばすだけだ。それに一応殺す気は無かったぞ。今回はな」

『顎しか砕いてないもんねー』

「ホントかよ・・・」


 本当だ。俺が嘘を吐く相手は、クソほど下らない外道相手ぐらいだ。

 その外道相手も滅多に嘘は吐かない。吐く必要も無いしな。

 勿論何も伝えない、という事は良くあるが。


 そんな俺達の会話を聞いている周囲は、尚の事困惑の表情を深めている。


「・・・ブッズ、彼女とは知り合いなのか?」

「ん? ああ。命の恩人で俺の師匠だ。メラネアの恩人でもある」

「恩人・・・師匠・・・?」


 ただ黙っていても説明が始まらないと思ったのか、受付の男が訊ねて来た。

 確かめる相手は俺ではなく、顔見知りなのであろうブッズにだが。

 彼の返答を聞いた連中は、余計に訳の分らないという顔を見せる。


 そして男は困惑の顔のまま、今度は俺に視線を向ける。


「じゃあ何でそう言わなかったんだ。弁明してくれたらこうはならなかった。ソイツだって怪我をしなくて済んだ。何故あんな真似をしたんだ」

「ふざけるな。貴様らが勝手に勘違いして威圧して来たんだろうが。かかって来たのもソイツが先だ。なら俺は殴り飛ばすだけだし、貴様ら全員潰せば良いだけだろうが」

「なっ・・・!」

「・・・変わらねえなぁ」

『妹だからね!』


 俺の返答に理解出来ないという表情の男と、苦笑しながら頭を抱えるブッズ。

 だが俺は間違った事は言っていない。何故俺が弁明してやらなければならない。


「貴様ら全員を敵に回した所で俺には何の問題も無い。俺が弁明して助かるのは貴様等だ。なら貴様等が話を聞く態度を見せない以上、説明してやる理由はどこにも無い」

「―――――本気で言ってるのか」


 男は目を見開き、若干声を震わせながら問う。信じられないと言わんばかりに。

 だが俺からすれば、何をつまらない事をと思う問いかけだ。


「当たり前だ」

「っ、組合を敵に回す事になる。指名手配にもなるかもしれない。それでも良いって言うのか」

「問題無い。敵になると言うなら皆殺しにするだけだ」

「く、狂ってる・・・!」


 狂ってるか。そうかもな。だがむしろ、悪党としての生き方を通す以上はそれで良い。

 俺は俺のやりたいようにやるし、その前に塞がるなら全て叩き潰すだけだ。


「ブッズ、何なんだコイツは! コイツは明らかに狂ってる!」

「あー・・・まあ、うん、嬢ちゃんが色々おかしいのは間違いないけど、基本的には手を出さなきゃ問題無いんだよ。実際今回も、手を出したのは嬢ちゃんからじゃないんじゃないか?」

「それ、は・・・そう、だが」


 男は激高した様子を見せたが、ブッズの淡々とした反論に言葉を勢いを失う。

 実際その通りだしな。威圧して来たのも、手を出して来たのもそっちだ。


「なら悪いが俺は嬢ちゃんの味方しかしねえぞ。それに嬢ちゃんは今言った事を実行出来る力も有る。敵に回す行動はしない方が組合の為だと思うぞ。少なくとも他の組合はそうしてたし」

「ぐっ・・・」


 組合の敵と認定するなら、俺はそれでも構いはしない。そのスタンスは絶対に崩さない。

 ブッズはそれを良く知っているが故に、先の言葉がハッタリでないと告げる。

 そして俺よりも彼の言葉の方が信用できるのか、受付の男は押し黙った。


「何より嬢ちゃんは精霊付きだ。下手に敵に回せば国が亡ぶんじゃねえかね」

「――――は?」


 更にブッズが畳みかける様に告げた言葉で、頭が真っ白になった様に見えた。

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