第664話、言葉足りずの行き違い

 職員の変化を怪訝に思っていると、似た様な気配を周囲から複数感じた。

 どいつもこいつも武器に手をかけていて、何時でも動ける体勢をとっている。

 俺が気が付いた様子を察したのか、職員は殺意を乗せたまま口を開く。


「これは警告だ。大人しく王都から・・・この国から即座に去るなら、見逃してあげよう。だがこの警告を無視するというのであれば、王都中が君の敵になる。君が探し人とどういう関係かは知らないが、物騒な真似は止める事だな。命を無駄にしたくは無いだろう」

「・・・成程?」

『物騒? 妹何か物騒な事言った?』


 何となくだが察した。恐らくメラネアの命を狙いに来たとでも思っているんだろう。

 それがメラネア個人を案じてか、そんな言葉を吐く人間を放置出来ないからかは解らないが。


「ふむ、まあ、そういう事なら加減しても良いか」

『ふむふむ、ふむー? 兄は解んない!』


 本来なら敵対者を許すつもりは無い。特に武器を持っているなら尚更だ。

 一切の容赦なく殺すし、その行為に何の呵責も無い。

 だがまあ理由がそういう事なら、手を出してきても生かしてはやろう。


「・・・何を言っているのかな、お嬢さん。状況が解っているのかい?」


 解っているし、普通なら弁明するのだろう。だが何故弁明をしなければならない。

 俺の言葉が少なかった事は事実だ。だがそれを理由に勘違いの殺意を許容する気は無い。

 話を聞く態度を向こうが見せない限り、態々説明してやる気も起きない。


 理由が理由なので加減する気は有るが、それとこの状況を許せるかは別の話だ。

 筋の通らない脅しを向けられている以上。悪党としてやり返させて貰おうか。


「そっちこそ状況が解っていない様だが。俺は別に組合に居る人間全員が相手でも構わん。脅すにしても、相手と脅し方を間違えれば逆効果だ。下手をすれば皆殺しにしていた」

『妹は短気だからねー。兄はもうちょっとのんびりで良いと思う』

「――――――お嬢さん、その言葉は、冗談じゃ済ませられないぞ」


 目の前の男の威圧感が少し増した気がする。というか、実際そう見せているな。

 かなりの魔力を放って俺を威圧し、格の違いを見せようとしている訳だ。

 これは確かに魔術師でなくとも、中々の圧を感じて怯むだろう。


 とはいえ、温いな。アイツの方がもっと圧がある。

 辺境の支部長、あのポンコツ女ならもっと魔力に圧力がある。


「なら、どうする。この場でやるか。俺は先程の通り、一向に構わんぞ」

『止めといた方が良いと思うよー?』


 まあそれはそれとして、脅されたなら脅しかえさせて貰おうか。

 ほぼ全力で魔力を垂れ流し、魔術師を全員威圧する。

 この魔力を感じ取って挑んでくる魔術師はそう居ないだろう。


「なっ・・・!」


 案の定目の前の男は見るからに震え、他には腰をぬかした者も居る。


「ひっ、ひぃ!?」

「あ・・・あぁ・・・む、むり、ば、化け物・・・!」

「は、はひゅっ、ひゅ・・・!」


 完全に戦闘の意思が砕けているな。やはり魔術師は楽で良い。

 肉弾戦の連中と違い、魔術の技量や魔力量を見るだけで大半が怯むからな。

 まあ目の前の男だけ震えながらも、戦意まではくじけなかった様だが。


「な、何なんだ、お前は・・・!」

「ただの化け物だよ」

『ただの兄です!』


 そう答えたとほぼ同時に、床を蹴る音が耳に届いた。

 視線を向ければ武器を手に持った男が、その武器を俺に振りかぶっている。

 一切の容赦の無い一撃だが、殺すつもりは無いらしい。鞘に入ったままだ。


 それを適当に手甲で殴り砕き、驚いた顔をする男の顎を砕く。

 男はそのまま沈んで行き―――――合図とでも言う様に周囲が一斉に構えた。


「てめえっ!」

「俺の仲間に何しやがった!」

「ぶっ殺す!」

「全員、コイツをガキだと思うなよ!」

「どこの馬鹿が思うか! 今の動き見てただろうが!!」


 見事に前衛だけだな。魔術師は同じ様には動けていない。

 むしろ殺気立った前衛に、首を横にふって止めようとしている。


「・・・俺は一応、警告はしたぞ」

『したっけ?』


 先程決めた通り、理由が理由だから殺しはしない。

 が、殺さないだけだ。かかってくるなら大怪我は許容して貰うぞ。

 そもそも勝手な勘違いで挑まれている訳だからな。

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