第663話、組合で訊ねたら
「さて、どうするか・・・」
『どうするのー?』
王都もやはり何かしらの危険から守る為か、外壁で覆われている。
道中魔獣の気配も何度か有ったので、恐らくはそういった物からだろう。
後は当然だが、犯罪者を入れず逃がさずの為に、といった所か。
門兵達の目は基本厳しく、笑顔の連中も目の奥は笑っていない。
それでも出入りはそこまで厳しくないのか、素通りしている人間も多い。
呼び止められているのは荷を持つ車か、大きな荷物を持つ人間だ。
時折荷物を持たない人間も呼び止められてはいるが、基準は良く解らない。
俺の場合は・・・まあ呼び止められるだろう。荷物を持っているしな。
「まあ、何時までも眺めていても仕方ない。行くか」
『おー、突貫だー!』
荷物を持って歩を進め、とりあえずそのまま素通り出来るか確かめてみる。
そんな俺の前を塞ぐ様に先回りした兵士。まあ当然と言えば当然か。
「荷物を改めさせて貰う。こっちに来い」
「ん」
『早くしてねー?』
どうせ手紙を渡せばすぐだと思い、素直について行って鞄を開ける。
中の手紙を渡すと門兵は怪訝そうな顔の後、目を見開いて驚く様子を見せる。
その後慌てて何処かへ行き、すぐに誰かを連れて戻って来た。
「誠に申し訳ありません。部下がご無礼を致しました事、平にご容赦を」
しかもその人物は俺の前で膝を突き、呼びに行った男の方も同じ体勢になった。
何となくそうかと思ってはいたが、やはりあの女騎士は結構上の人間か。
「謝罪の必要は無い。俺は門を通れるならそれで良い」
『通って良いー?』
だがその茶番劇に付き合うのも面倒なので、とりあえずとっとと通る事を望む。
事情が解らない連中は困惑していたが、俺の要望は通って街の中へ。
その途中で兵士が急いで走って行ったが、多分城にでも伝令を送ったんだろう。
この国に、この街に誰が来たのか、危険を告げる為に。
「さて・・・先ずは組合に向かうか」
『何処にあるのか知ってるの?』
「さあ。だが今までの経験上、大通りに在るだろうよ」
今までの組合は全て大通りに在った。特に主要な大通りに。
なら今回もそうだろう。組合が追いやられる理由でもない限りは。
取り合えずこっちの一番大きな通りの方へ向かってみよう。
「そういえば、お前は狐の気配とか解らないのか」
『狐が本来の姿ならすぐ解るよー。今はちっちゃくなってるから近づかないとわかんなーい』
「そんなものか」
『妹だって解んないでしょ?』
「そうだな」
アイツが全力を出している時は、余りにも強い存在感ですぐに解る。
だが小さくなっている場合は、目視できる距離でも気が付かない事が多い。
それぐらい精霊の魔力の気配は薄く、逆にそれが危険だと思える。
本当の力は遥かに強大なのに、そこに居ると普通は解らないんだからな。
「お、アレだ」
『汗臭そうなのが沢山居るねー』
組合の名が書かれた建物を見つけ、出入りする人間の間を縫って中へ。
中は昼間過ぎだというのに人が多い。男女大人子供問わず。
そんな様子を観察する俺は、やけに視線を集めている事に気が付いた。
だが絡んでくる様子は無い。単に不思議そうな目で見ている感じだ。
視線が脚甲と手甲に向いている事が多いな。武装している子供という存在が不思議なのか。
とりあえずそれらは無視して、手の空いていそうな職員へ声をかけに向かう。
「すまない、少し聞きたい事が有るんだが」
「はい。どうされました、お嬢さん」
受付嬢、ではなく男だ。優男と言った感じだな。
喋り方も見た目通りというか、どこか軽い感じがする。
第一印象はそんな感じだ。実際がどうかは知らんが。
「人を探しているんだ。メラネアという名なんだが、知らないか」
『ついでに狐も知ってるー?』
「・・・何故その方を探しておられるので?」
今少し間が有ったな。しかも答えずに問いを投げて来た。
これは知ってはいるが、安易に教える気は無いという事だろう。
なら既に街には居ないんだろうか。いや、そう判断するのは流石に早いな。
「伝える事が有るだけだ。命を左右する話をな」
『イヤーな奴に狙われるかもだもんねー』
嫌な奴か。そうだな、嫌な奴だ。俺もアイツ等は大嫌いだ。
最初は皆殺しにして気が済んだが、後から思えば全部燃やせばよかった。
精霊の言葉をそんな風に思っていると、眼の前の男の目が鋭くなる。
先程の軽さは消えてなくなり、鋭い刃物のような印象を受けた。
「ここで、この場所で、人を殺す事を何の躊躇も無く告げるとは、良い度胸だねお嬢さん」
「あん?」
『何言ってるのー?』
精霊と同じ意見なのは気に食わないが、一体こいつは何を言い出すんだ。
というか、殺気まで放って来ているな。本当に何のつもりだ。
もしかかって来ると言うなら、組合職員だろうが一切の容赦はせんぞ。
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