第662話、メラネアを追った先は

『はー・・・美味しかった・・・しゃーわせ・・・』

「ずずっ」


 弁当を食べて満足そうに転がる精霊の横で、魔術で作ったお茶を飲む。

 水を魔獣の魔術で作り出し、空中に浮かべてそこに茶葉を投入。

 その後水を操作して茶葉を落とさない様にしつつ、火であぶってお湯にする。


 出来た茶をコップに投入して、食後の茶を楽しんでいるのが今だ。


「・・・うん、美味いな」

『ええー!? 大丈夫!? 妹ってば舌おかしくなったの!?』


 使っている茶葉が検問で貰った物なせいか、精霊は信じられない様子だ。

 だが実際それなりに美味い。勿論プロが淹れる茶には程遠い。

 ただ適当に一般人が飲む茶としては、美味い部類に入ると思う。


 多分あの煮詰めた苦い茶も、薬湯と同じで消毒の意味もあるんだろう。

 使っている物は違うのだろうが、どちらも水をそのまま飲まない為の対策だ。

 そこまで距離が離れていないのに、対策が違うというのも面白い話だな。


『・・・美味しいの? ほんとに美味しいの? 嘘じゃない? 飲ませて兄を泣かせようとしてない? 騙したら兄は泣くよ?』

「煩いな。お前の為に淹れてない。お前の分は元から無い」

『えー、何で何でー! 美味しいなら兄も飲みたーい! ちょーだいちょーだーい!』

「・・・はぁ」


 バタバタと煩い。放置しても良いが、それだとのんびりした食後を楽しめない。

 溜め息を吐きながら同じ様に茶を作り、ただコップが無い事に気が付く。

 器の類は自分の分しか無い。鍋ならあるからそれで良いか。


 鞄から小鍋を取り出し、その中に茶をぶち込む。


『おっきいカップだー!』

「鍋だ」

『大は小を兼ねる!』

「無駄に大きくても邪魔なだけだ」

『もー、妹はひねくれてるんだからー』

「ただの事実だ」


 また溜息を吐いて茶を飲むと、精霊は恐る恐るという様子で鍋を傾ける。

 そして茶を口に流し込んで暫く固まり、かと思うとごくごくと飲みだした。


『おーいしー! 妹天才! 凄く美味しい! ナニコレ全然違う!』

「そこまで絶賛する程の物じゃ無いだろう・・・」


 あれに比べれば確かに美味いが、それは単に量の調整をしただけだ。

 俺が出す水は飲み水として問題無く使える。だから消毒の必要が無い。

 なので味の調整も簡単で、普通に飲める緑茶になる。


 まあそうすると、微かな記憶を刺激する味にはならない訳だが。


『にへへー。妹が淹れてくれたお茶美味しいなー♪』

「ふん・・・」


 やけに楽しそうな精霊は、とりあえずさっきよりは静かになった。

 なのでのんびりと茶を飲み終わったら、片付けて地図を開く。

 流石にこの国の詳しい地図は無いので、簡易地図にはなってしまうが。


「検問がこの辺りで・・・あの街がここで・・・ええと、こっちだな」

『大丈夫ー?』

「さあ。コレが簡易地図な事を考えると、街道を通らねば迷子になる可能性は大きだろうな」

『妹迷子になるのは得意だもんねー』

「今回は目的地の場所が明確に解って無いんだから仕方ないだろう」


 地図を鞄に仕舞ってから魔力を循環させ、鞄を持って目的の方向に目を向ける。

 取り合えず街道の傍を通れば間違いは無いだろう。そう考えた通りに走りだす。

 周囲の獣が逃げ惑う気配を感じるが、それに構う理由も無いので突っ走る。


 そうして何度か街や村を通り過ぎて、目的の街へと辿り着いた。


「王都か、人が多くて探すのが面倒そうだな」

『狐は何処だーい!』


 まさか王都まで足を延ばしているとは思わなかったな。

 いや、アイツ等の目的を考えれば当然か。様々な場所を見る旅だし。

 それを考えれば、まだそこまで遠くに行ってなかったとも言える。

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