第661話、増える手紙
『すんすん・・・美味しくない・・・美味しくないよぉ・・・すんすん』
「うっとおしいな・・・」
不味い薬湯をちびちび飲みながら泣く精霊だが、そもそも飲まなければ良いだろう。
いや待て、今更気が付いたんだが、当たり前の様に精霊の分も用意しているな。
もしかして俺の付いている精霊が飲み食いする、という情報まで出回っているのか?
そうなると俺の詳しい話も結構広まっていそうだな。勿論知っている人間だけだろうが。
テレビやネットなどが有るなら兎も角、流石に一般人までは俺の事を知るまい。
等と考えながらのんびり、というかぼーっと暫く待つ。
「失礼します。お待たせしました」
そして然程待たずに女騎士がやってきて、三通の手紙を持って来た。
「・・・三通?」
「はい、もう少し行った先にも大きめの検問がありますので、そちらにはこれを。街に入る際にはこれを。もし領主などの貴族に用がある際は、こちらを渡せば話は通し易いかと。一応検問には伝令を入れてありますが、確認出来る物があった方が安心出来ますので」
成程、この女騎士は結構顔が広いらしい。本人も貴族なのかもしれないな。
「解った。ありがたく貰っておく」
『ありがとねー!』
「お役に立てれば何よりです」
手紙を鞄の中に入れて立ち上がり、精霊は残った薬湯を一気飲みして涙目になっている。
無理に飲む必要も無いだろうとも思ったが、小声で『兄も飲めるもん』と呟くのが聞こえた。
よく解らん意地を張っているな。何時もの事なのでどうでも良いが。
「貴女にかける必要のある言葉とは思っておりませんが、道中お気をつけて」
「ああ、じゃあな」
『じゃあねー!』
そして天幕を出たら女騎士に見送られ、強化をかけてから走り出す。
暫くは知ると彼女の言っていた通り、大きめの検問がもう一つあった。
高速で突っ込んで来る俺に最初こそ警戒していたが、それも最初だけ。
貰った手紙を渡せばすぐに警戒は解け、大した質問も無く通される。
若干それで良いのかと思わなくはないが、これも処世術かと思った。
本当に今更な話だが、俺は止められても押し通りつもりでここに居る。
大人しいのは彼らの対応が緩く、そして俺に利の有る行動をしているからだ。
もし長々押し止めて暴れる事を考えれば、素直に通す方が被害が出ない。
「やはり、世界は規則を常に守る者の方が少ないな」
『どしたの妹、何か嫌な事でもあった?』
「別に」
ただ昔を思い出していただけだ。誰が相手でも規則を曲げなかった自分を。
恐らく俺が責任者の立場であれば、通常通り相手をしていただろう。
特別扱いなどしない。通してはいけない人間を通す可能性が在ると。
その結果被害を被りたくない連中も、眼の前の存在も敵に回す。
結局の所大なり小なり大概の存在は悪党なのだから。
度合いが違うだけだ。規律を全て守る正しさを貫く人間は少ない。
「さて、そろそろ街だが・・・ここは通過で良いか」
『街に寄らないのー?』
「メラネアはもっと先の街に居る。ならここに用は無い」
『美味しい物があるかもしれないよ?』
「今日は弁当がある。要らないなら―――――――」
『要る! 食堂の弁当は美味しいから食べる! 兄はもう美味しくないのやだ!!!!』
余程茶と薬湯のダメージがでかかったのか、精霊は涙目になりながら食い気味に訴える。
こいつを酷い目に合わせたいなら、不味い物を食わせれば良いのか。
いや、でも食い物は不味くても食ってた気がするな。
茶だけが特別なのか? いや止めよう。絶対考えるだけ無駄な奴だこれ。
『ねえ、妹返事して! 兄は食べたいです! ちゃんと美味しい物が食べたいです!!』
「ああ煩い、解ったから騒ぐな」
『やったー! じゃあどこで食べる!? 兄はあの辺りが良いと思う!』
「はいはい」
精霊が示した場所はちょっとした崖の上で、確かに静かに食べられそうだ。
取り合えず腹ごしらえといこう。それと茶も作ってみるか。
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