第658話、早く済ませる為に待つ
男を引き渡した後はもうのんびり歩く意味も無く、次襲われるのも面倒だな。
歩くのは止めて地を蹴って走り、すると暫くして先行した兵士に追いついた。
「えっ!?」
「お前が伝令を任された連中の所まで遠いのか?」
『時間かかるー?』
「い、いえ、この速度であれば、そこまではかからない、かと」
「そうか、ならそこまではこのまま行くか」
『ごーごー!』
兵士は驚きながらも返答をし、ならばとその獣と並走を続ける。
獣は俺に並走されたのが気に食わないのか、目が合うと気合を入れて走り出した。
「うわっ、お、おい! 落ち着け!」
兵士は手綱を引いて速度を落とさせようとするが、完全に無視している。
まあ速度が上がったなら良いかと思い、少し前を行く獣に追いついてまた並走する。
すると獣は少し驚いた顔を見せ、また意地になったようで速度を上げた。
だがそれにも追いつくと流石に限界だったのか、それ以上は上げられない様だ。
悔し気に走り続けるその様に、随分と感情豊かな獣だと思う。
乗っている兵士は大変そうだが、振り落とされる気配は無いので大丈夫だろう。
そうして走る事暫くして、兵士の集団が見えて来た。
簡易な木の柵で陣が敷かれており、無理な突破は出来そうにない。
おそらく戦争時の準備をそのまま有用しているんだろう。
「ばかっ、止まれ止まれ! 速度落せ! このまま行ったらぶつかる!」
「・・・ガフッ」
流石に視認できる距離で全力疾走は不味いので、兵士が強く手綱を引く。
だが獣は引かれた事というよりも、眼の前を視認して言葉を聞いての反応に見えた。
随分と賢い様だ。残念そうに小さく鳴くと、ちゃんとゆっくり速度を落としていく。
俺もそれと同じ様に速度を落とし、獣と一緒の位置で止まった。
「な、なんだぁ!?」
「随分急いでたが、何か有ったのか?」
「・・・なあ、今女の子が横で走ってたよな」
「え、何言ってんだよ、何かの見間違いだろ?」
「いやいや走ってたって。俺見てたもん」
到着すると当然と言うべきか、全速力で来た事に疑問を持たれる。
ただ兵士は責任者らしき人間の元へ行くと、俺をチラッと見ながら何かを告げる。
さっきと違って人が多く、皆色々喋っているせいで聞き取れないな。
報告を聞いた兵士はこちらに寄って来ると、俺の前で膝を突いた。
「お初にお目にかかります。貴女は精霊付き様でお間違いありませんか」
精霊付きか。成程、メラネア以外の精霊付きの情報も出回ってる訳だ。
むしろ俺の暴れっぷりを考えたら、俺の情報が無い方がおかしいか。
「それは、そうだな」
『兄が居ます!』
「そうですか。我々をお救い下さった精霊様の元へお向かいになると聞きましたが、その方はあちらの国に居られるのでしょうか」
「前情報ではそうだな」
『お友達に早く会いたいねー』
男は質問をしてはいるが、それは単純に確認作業をしている様に見えた。
疑問ではなく確信をもって問いかけ、やはりそうかと納得するような。
「先程はお急ぎの様にお見受けいたしましたが・・・先を急がれますか?」
「出来れば擦れ違いは避けたいんでな」
『また遠くに行っちゃうかもだもんね』
「そうですか・・・ではお時間を頂ければ、この後の手間を減らす協力が出来るかと存じます」
「何をするんだ?」
『なにー? 妹がもっと早く走れるようになるのー?』
先を急ぐかの確認をした上での提案で有れば、本当に手間を減らせるのだろう。
何をするつもりか知らないが、話を聞く価値はあると思う。
「手紙をしたためますので。それに少しお時間を頂ければ。それを持てばあちらの検問も然程の手間なく通れると存じますので。何も持たずに行かれるよりは簡単に話が済むかと」
ああ、そういう事か。恐らく検問は向こうの国もやっている。
そこに子供が来た場合は、また何かしら一悶着あるだろう。
だがその際に手紙を持っていれば、確かに話は簡単に済みそうだ。
「成程。それぐらいなら待つ。頼んで良いか」
『おー、妹が納得してるー。凄い! 兄はいっつも怒られるのに! でもそこが可愛いよね!』
お前が怒られるのは、良く訳の分らない事を言い出すからだろうが。
後いい加減その毒の実と葉を捨てろ。兵士共が不思議そうな顔で見てるだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます