第657話、英雄の知り合い
兵士が態々俺に目線を合わせ、しゃがみこんで話を聞く態勢になっている。
色々と信じていない態度だ。いや、どこまでが真実か知りたいという感じか。
俺が後ろの男を倒した事実を、わざとやられたと思っているのかもしれない。
逃げ出しはしたが諦めて捕まる為に、それもなるべく穏便に済ませようと。
子供を使う茶番は頂けないが、子供に危害を加える外道ではないと見せる為に。
「その槍、ちょっと借りて良いか」
『ん、妹それ欲しいの?』
「ん? これか? これは嬢ちゃんにはちょっと重いと思うぞ。その大きなカバンを持ち運んでいるから自信があるのかもしれないが、子供には危ない」
男は完全に俺をただの子供だと思っており、俺の言葉を真面目に聞く気が無い。
こうなると話が先に進まないなと思い、返答を無視して槍に手を伸ばした。
「お、おい、だから危な・・・え、ちょ、な・・・!」
無言で槍を掴み引き寄せる。当然兵士が抵抗するが、それも無視して。
兵士は抑えられない所か、引きずられる事に驚いた顔を見せた。
ただ周囲の兵士達はこの段になっても、何を遊んでいるんだという様子だ。
なのでもっと解り易いように、槍の穂先に手をかけてクニャッと曲げてやった。
「「「「「なっ!?」」」」」
流石にこれは全員が驚きを見せ、俺について来た男も目を見開いている。
「真面目に話を聞く気になったか?」
『ちゃんと聞いあげてね!』
「え、あ、ああ・・・ええ・・・?」
兵士は驚きと困惑の中に居るが、これで流石にちゃんと話を聞くだろう。
そう思い先程あった事をもう一度告げ、その上で男を突き出す。
俺を殺す気が無かった事は一応言ってやったが、どう受け取るは連中しだいだ。
男は特に抵抗らしい抵抗も見せず、むしろ俺に頭を下げて兵士達の下へ行った。
兵士達は相変わらず困惑はしているが、指揮官が指示を出して男を捕縛する。
その間に一人の兵が指揮官へと近づき、耳元でボソッと呟いた。
「隊長、もしかしてそのお嬢さん、例の子じゃないですかね」
「かもな。だがもしそうなら、感謝を述べてこのまま行ってもらう方が平和だろう。自分の事に関して詳しい話をされるつもりは無い様だしな。下手な事をして怒らせるのは不味い」
例の子か。どっちの事だろうな。俺の事でも、メラネアの事でもある気がする。
まあ良いか。向こうに引き留める気が無いなら、俺の様はもう終わりだ。
「では俺はもう行くが、良いな?」
『いいかーい?』
「はい、残党捕縛にご協力頂き感謝します」
兵士達は最初の態度とは完全に変わり、まるで上官を相手にする様に俺を見送る。
流石にそこまでされる事は無いと思うんだが。やはりこれは勘違いしていそうだな。
「俺の傍に狐は居ないぞ。もしそう思ってるなら勘違いだ」
『兄が居るからね! むふー!』
「・・・あの精霊様を『狐』などと呼べる方に、無礼な真似をする度胸は有りませんよ」
・・・良く考えればそうか。こちらの戦場で狐は大暴れしたんだしな。
化け者を見た連中からしてみれば、関係者らしき発言をした時点でそう考えるか。
「じゃあ言い方を変える。この地の戦場を救ったのは俺じゃない。俺はその話を聞いて、そいつに会いに来ただけだ。関係者ではあるが、知り合いに過ぎない。そこは勘違いするなよ」
『妹ここに居なかったもんねー。でもあの子はお友達でしょー? 照れ隠し良くないと思う』
照れ隠しで言ったんじゃなくて、これ以上の説明が面倒だったんだ。
「解りました。他の者にも周知させておきます」
そういうが早いが、部下が数人が獣に乗って走りだしていた。
言う通り伝令に向かったのと、一頭は先程捕縛した男を運ぶ為に。
虎の威を借りている様で微妙な気分だが、動きやすくなるならそれで良いか。
借りているのは狐の威だが。メラネアはこういう扱いを嫌がって隠していそうだな。
「そうか。まあ良い解った。じゃあな」
『じゃあねー!』
「はい、お気をつけて」
兵士達は全員ビシッと敬礼をして、去っていく俺を見送る。
そういうの要らないから警備に戻れと、そう告げてから離れた。
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