第650話、薄い布?
「それは何か魔獣の素材を縫い込んだ布なのか?」
『んー? これ布?』
俺の体質を知っている店主が持って来た以上、ただの布じゃ無いだろう。
少なくとも何かしらに魔獣の素材が使われているはずだ。
だが布と判断した俺に対し、精霊は首を傾げて疑問を覚えている。
そして店主は俺の言葉を聞いて、にやっと笑ってから口を開いた。
「それがこれ、布じゃなくて毛皮なんだよ」
「毛皮? これが?」
『やっぱりそうだよねー』
店主が俺に手渡して来たので、触って確かめても毛皮には見えない。
薄めの布だ。しかも結構手触りの良い奴。この時代では難しそうな類の布。
だが触った所で店主の言う通り、魔獣の力らしき物を感じた。
精霊は何が見えているのか、触る前から解っていたらしい。
「例によって詳しい説明は省くが、魔獣の薄皮というか、一番外の外皮を綺麗に剝いた後、それを縫い合わせた物だ。薄さの割には頑丈だから、暖かい時の肌着として使われる。値段も余り高い物じゃないから、これを愛用する連中も居るぐらいの物だ」
「・・・そういえば、似た様なのを着ている奴が居た様な」
『居たねー』
余り他人を気にしてはいなかったが、中にこんな感じの服を着ている奴は居た。
主に女が多かった気がする。中にこう言うのを着て、上から別の服という感じで。
セムラも着ていた様な気がする。アイツは動きやすさ重視だったし。
「まあ頑丈つっても、見た目よりは頑丈ってぐらいで、普通に斬れるし、あまり強い力をかけたら破れもする・・・が、嬢ちゃんならあんまり関係無い気がしないか?」
「確かに。俺なら関係無いかもな」
触った感じ、店主の言う通り見た目よりは頑丈そうだが、所詮それまでだ。
だがこれが魔獣の素材である以上は、魔力を通して強化できるかもしれない。
「少し試して良いか?」
「おう、勿論良いぜ。あっち行くか」
店主と娘を伴って移動し、何度も殴り試しをしている場所へと向かう。
そしておもむろに服を脱いだら娘に止められ、店主は苦笑していた。
店主からしたらガキではあるが、娘は女の子扱いという感じだな。
更衣室で着替えを済ませ、更に娘のお古も着せられた。
この毛皮の服だけでは流石に薄すぎる、という事らしい。
それを込みでも、大分涼し気な格好になったと思う。
問題があるとすれば、辺境では暖かくなっても朝晩が寒い事か。
昼間も寒い日だと辛そうだ。まさに暖かい所の為の服だな。
『おー! 妹そういうのも良いね! 可愛い!』
「はいはい」
精霊が無駄にテンション上がったので、それは適当に流しておく。
それから何時もの様に適当な木の板を用意して、魔力循環で強化をする。
若干不安はあったが問題無く毛皮に魔力が通り、そして腕をぶつける様に振り抜いた。
板は当然の様に爆散し、毛皮を確認すると破れた様子は一切無い。
むしろ俺の肌の上に、薄く頑丈な皮が出来たような、そんな感覚だ。
「ふむ・・・なあ店主、これ使って良いか」
『ナイフー? 兄はこっちの大きな槍の方がかっこいいと思う』
かっこよさは求めてないし、大きさは小さい方が今は良いんだよ。
「あん? 別に構わねえが、どうするつもりだ?」
「こうする」
「「なっ!」」
店主と娘が驚く声を聞きながら、近くにあったナイフを腕に振り下ろす。
力を籠めすぎるとナイフが砕けるので、ある程度加減して切り裂くつもりで。
だがナイフは毛皮の表面をつるりと滑り、そのせいで変な方向に振ってしまった。
「何だ、今の・・・ナイフが滑った?」
『つるってなったねー』
「ちょ、なにしてんだ、びっくりしたじゃねえか!」
「突然腕に刃物を振り下ろさないでよ! 心臓止まるかと思ったわよ!」
「問題無い。普通の刃物なら俺の腕の方が勝つ。砕けるのは刃物の方だ」
『妹は頑丈だからね!』
「「そういう問題じゃない!!」」
その後少々二人に怒られ、ただそれを不快には感じなかった。
純粋に俺を心配した言葉であり、だからこそ出た言葉だったしな。
とはいえどの道、強度の確認の為には同じ事をしたとは思うが。
しかし、単純な頑丈さだけじゃないなこれは。なかなか面白い。
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