第649話、暑い所の為の準備
「ふああああ・・・・んむ・・・朝か」
『すぴー・・・すぴー・・・』
自然と意識が起きたのに従い体を起こし、ぐっと伸びをしてベッドを降りる。
何だかんだと結局もう一日休む事にした。流石に一日ぐらいは誤差だと思いたい。
部屋を出たら女将に挨拶をして、食堂へと向かった。
精霊はどうせその内起きるだろう。起こしても煩いだけなので放置だ。
食堂に入ると何時も通り娘が迎えに来て、ニコニコ笑顔で挨拶して来た。
「ミクさんおはようございます。今日はしっかり起きてるんですね」
「何時もは起きてないみたいな言い草だな」
「でも半々ぐらいで寝てますよね?」
「何でどいつもこいつも俺の言う事を信じないんだ。受け答えは出来てるだろうが」
「出来て・・・うーん?」
首を傾げるな。返答はしっかりしてるだろうが。
ちゃんと会話内容は覚えてるし、答えた言葉も覚えてるのに。
確かに多少寝ぼけている事は認めるが、ちゃんと起きてはいるんだぞ。
「おーい、注文良いかなー」
「あ、はーい、今行きまーす。ミクさんは何時もの席空いてますよ」
ただそこで娘は他の客に飛ばれ、俺も無理に引き止めて語る程の事でもない。
素直に何時もの席に座り、何時も通り朝食が出るのを待つ。
そういえば俺は注文とかした事無いんだよな。大体全部食べるから。
他の店に行っても、有るだけ持って来いみたいな事しかした覚えがない。
金があるから問題無いが、金が無かったら俺の体は成立しないんじゃないか。
いやまあ、いざとなればその辺の野生動物を食えば良いんだが。
俺も素人料理とはいえ、家庭料理ぐらいの事は出来るし。
一応家庭に入った主婦になった事も有るからな。
家事は一通りできる。やろうと思えばで、一般人レベルだが。
ただこの世界の料理関連を詳しく調べてないから、調味料が余り解らん。
そういえば塩が普通にある気がするが、岩塩だろうか、海からの物だろうか。
どこかに塩湖があるという線もあるのか。少し気になるな。
塩の実が成る世界も在ったから、その可能性も有るだろうな。
「おまたせしましたー」
と、どうでも良い事を考えている内に、注文していない料理が何時もの様に届く。
何時もの事なので当然食べ始め、もりもり食っている内に追加が来る。
『おっはよー! 兄だよー!』
「邪魔だ」
『ぶべっ。うーん、今日の妹はちょっと短気。ううん? 何時も短気? まあ良いか。兄も一緒に食べるぞー! お、これこの前妹と奪い合ったやつだー』
そして何時も通り食事の奪い合いになり、周囲に生暖かい目を向けられながら完食。
食堂を出たら部屋に戻り、鞄に荷物を詰めて遠出の準備が済んだら女将の下へ。
「女将、また出て来る。もしかしたら今回も少し遅くなるかもしれない。やはり居ない間の部屋代は渡しておこうと思うんだが」
『とっときない!』
「良いよ良いよ。前にも言ったけど、満室になる事なんて滅多に無いんだし」
「だが」
「ミクちゃん、少しぐらい大人に格好つけさせておくれよ。ね」
『おー・・・兄も格好つけた方が良い?』
ポンと、俺の頭に手を乗せ、撫でながら告げる女将。
彼女の気持ちは解ってはいる。俺に礼をしたいのだろうと。
街を救った礼を。以前もそんな事を言っていたしな。
俺としてはやりたい事をやっただけなので、礼だの何だのはどうでも良いんだが。
「女将がそれで良いなら構わんが、それで損が出ても知らんぞ」
「あっはっは、その時はその時さ。旦那に甘えるとするかね」
『兄も妹に甘えて欲しい!』
なら俺から言う事はこれ以上は無い。素直に鍵を返して宿を出る。
その後は街の悪ガキ共に挨拶されつつ、武具店へと向かった。
「あ、いらっしゃい、ミクちゃん。二日続けてなんて珍しいわね。どうしたの?」
「何時もの光景だな」
『店主居ないねー』
何時も通りの店主の居ない店に入り、それを告げると苦笑する娘。
「防具が無いかと思ってな」
「防具? でもミクちゃん、それがあるでしょ?」
『おお、とうとう妹も羽を付ける気になったのか! やったぜ!』
付けない。絶対に付けない。何が有ろうと羽だけはつけないと今心に決めた。
「辺境はこの格好でもまだ良いし、山に向かえば未だに装備が無いと寒すぎて死ぬが、他の場所に向かうには暑い。危険だと思えば着て戦うが、普段ずっと着ていられない。魔獣素材で薄手の服などは無いか。出来れば長袖の物が良いが、無ければ半袖で構わない」
『出来れば可愛い奴が良い!』
「あー・・・そうだよねぇ。最近はココでもちょっと暑いし、他の所に行ったら汗だくになって着てられないよね。うーん、ちょっと待っててねー」
娘は俺の状況を理解して、奥の方に消えて行った。
一応装備品用の肌着も魔獣素材なんだが、これも寒い場所用だ。
もし熱い地域に行く機会を考えると、流石にそろそろ冬服以外が欲しい。
普通のシャツやらパンツやらは持っているが、これらは強化出来ないしな。
そうして暫く待っていると、店の奥から店主が現れた。
「よう、嬢ちゃん・・・ってその荷物、もう出かけるのか?」
『もう出ちゃうみたいなんだー。慌ただしいよねー』
「出る事は伝えただろう」
「そうだけどよぉ。もう少しゆっくりして行っても良いと思うんだが」
『そうだよねー?』
「残念ながら、ゆっくりできない理由が有ってな。それに余分に二日も休んでしまったし、流石にこれ以上のんびりすると、メラネアを見つけられない可能性があるんでな」
彼女の軌跡が解っているとはいえ、それは今現在の居場所に過ぎない。
もし今も移動をしていたら、到着した時には居ない可能性も有る。
「メラネアちゃんか・・・そっか。ああ、それでええと、暖かい場所用の服だよな?」
「ああ、出来れば魔獣の素材の物があると助かる」
『可愛い物だと良いね!』
「嬢ちゃんの体質を考えるとそうだろうなぁ」
「難しいか?」
『だめー?』
「いや、あるぜ。嬢ちゃんにぴったりな奴が。むしろ嬢ちゃんの為に在るんじゃないかって服がある。値段もそんなに高くないし、目的にもピッタリな物だ。今出す。ここにあるから」
そんな都合の良い物があるのかと思っていると、店主はカウンターの棚から布を取り出す。
薄めのレギンスのような物と、それと同じ様な首まで布の有るシャツだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます