第648話、話の腰

「なあ領主殿、素朴な疑問なんだが、組合の魔道具が一般に流れる危険もあるんじゃないのか」


 組合にある魔道具は、組合証を持つ人間に限るが、それでも人の位置が解る。

 そんな便利な物であれば、組合から持ち出して売る人間が居てもおかしくない。


「結論から言うと、無理だな」

「何故?」

「持ち出せないからだ。持ち出したら魔道具が壊れる。そういう風に作られている。作っている一族がその辺り徹底していてな、一度魔道具を起動させると、そこから動かせなくなるんだ」


 一族と来たか。まあこういう時代では当然と言えば当然か。

 金に生る事は一族で秘匿する。危険な事も一族で秘匿する。

 色々と危うい時代では、そうやって身を守るのは良くある事だ。


 ただそうやって秘匿し続けていても、誰かが不意に漏らす事が有る訳だが。


「抜け道は無いのか?」

「無い、らしいが、解らないというのが正直な所だ。魔道具の作りなんて解らないしな」

「ああ、それはそうか」


 無いと言われたら、そうなのかと信じるしかない。何せ解らないからな。

 綺麗なコードと汚いコードのプログラムを、一般人が見比べても解らない様に。

 ただそれは逆も言える事で、専門職であれば何か解るかもしれないが。


「もしかしたら抜け道も有るのかもしれない。ただ魔道具が壊れた際に修理ではなく、新しい物を作る事を考えると、やはり抜け道が無い様に作っているんじゃないかとは思う」

「そうか・・・まあ真実がどうあれ、基本的には動かせないと」


 ただそれを『そうなのか』と信じている人間ばかりじゃ無いだろう。

 悪用しようと思えば、色んな事に使えそうな魔道具だ。

 作っている一族とやらは襲撃を受けそうなものだが、その辺りは大丈夫なんだろうか。


「一族の身の安全は?」

「組合の大事な大事な機材だからな。組合を機能させる為の大事な物の一つで、国と渡り合える立場にある為の大事な物だ。勿論アレ一つで敵に回す事は出来ないが、危険だと思えば壊して逃げてしまえば良い。そうなれば国にとっては損しかない。つまりはそういう事さ」


 ああ、つまる所、組合が大事に大事に一族を抱えているという訳だ。

 一族が望んでの事なのか、組合が捕えているのかは解らないが。

 そしてそんな状況である以上、国も無理に暴く事は出来ないと。


 基本的に立場は国の方が上だが、害を成すなら国から逃げれば良い。

 なら阿呆は手を出す可能性はあっても、真面な人間なら無理はしないか。

 むしろ現状利になっているのだから、余計な事はせずに共存関係が一番良い。


 勿論その一族とやらが、方針転換をした場合はどうなるか解らないが。


「聞いておいてなんだが、今回の話は殆ど機密だよな」

「ははっ、今更な確認だな。確かに機密と言えば機密だが、貴殿に隠し立てする程の内容でも無いだろうよ。グレーブルもそう思ったからこそ、貴殿には話したんだろうしな」


 そんな考えをアイツがしているだろうか。しているのかもしれない。

 どうにもポンコツの顔が浮かぶが、一応優秀な支部長だしな。


「そ―――――」

『ごちそーさまー! 余は満足じゃー!』


 そこで菓子を食い切った精霊が、どこぞの王様か将軍の様に声を上げる。

 満足そうに腹を叩いたら、カップへと向かって茶を一気飲みしだした。


『ぷはー! やっぱりここのお茶は格別だね! お代わりー!』

「畏まりました」


 そこまで完全に空気になっていた使用人が動き、精霊のカップに茶を淹れる。

 声は聞こえていないはずなのに、完全な対応に思わず半眼を向けてしまう。


「どうぞ、精霊様」

『ありがとー! ずずー・・・はぁー、おいしい。さっきは一気に飲んじゃったからね。今度はゆっくり味わうのだー。あ、お菓子ってお変わりある?』

「お菓子のお代わりを持ってきますね」

『わーい!』


 なあ、お前本当に聞こえてないのか。実は聞こえてたりしないか。

 余りにも完璧すぎるぞ。何が見えてたらそこまで的確に対応できるんだ。


「ええと、ミク殿、何か言いかけていなかったか?」

「・・・忘れた」


 何か言いたかったはずだが、精霊と使用人に意識を取られて全部吹き飛んだ。

 まあ、良いか。別に。これ以上聞く事も無いだろう。大体知りたい事は知れた。

 後は出発の前に武具店によって、暖かい場所用の服でも頼んで行こう。


『はぁー・・・あれ、妹どったの。兄をそんなに見つめて・・・はっ、もしや兄の格好良さに気が付いてしまった!? いやー、まいるなー。でも良いんだよ、もっと兄を好きにな――――』

「ふんっ!」


 とりあえず精霊は投げ捨てておき、使用人の持ってきた菓子は俺が全部食った。

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