第647話、横流しと捜索の危険

「後は・・・恐らくだが、グレーブルの奴が先手を打ってるだろうな」

「先手?」

「貴殿の事を他の組合に知らせているなら、多少は面倒事を少なく出来るだろう。組合でも鳥を使ってのやり取りはしている。魔道具で会話も出来れば最良だが、それは無理みたいだからな。とはいえ、そうだとしても遠くの人間の位置を把握出来る事が凄いんだが」

「そうだな。かなり有能な道具だな」


 遠くの誰ががどこに居るかを確認できる。それは国にとってかなり有用な情報だろう。

 おそらくは貴族の上層部なんかはこの事実を知っている。

 となれば何に活用できるかと言えば、諜報には間違いなく使えるだろうな。


 本来の身分を隠して組合員として働き、組合での記録が消えれば何かが起きたと判断できる。

 勿論何が起きたのかは現地に人を送るしかないが、連絡待ちをしなくて良いのは強みだ。

 それに連絡を取りたい人物の場所が解るなら、そこに連絡用の鳥を送れば良い。


 指示を出す側にとって、かなり有用な道具だ。そして恐らくはそう使われている。

 多分これは組合が存在する国は、全て暗黙の了解でやっている気がするな。


「もしかすると、ミク殿の情報を流している誰かが居るかもしれないな」

「・・・成程?」


 つまり組合の情報を受け取る貴族の中に、連中と繋がってる奴が居るかもしれないと。

 そうする事で俺の位置を把握し、メラネアの事を補足出来たという事か。


「だが俺は、サーラの所では組合に行ってないぞ」

「そうなのか。なら私の考え過ぎかもしれないな」


 どうなんだろうな。もしかしたら流している奴は居るのかもしれない。

 とはいえサーラの所にはそこそこ滞在していたので、諜報員が居ればすぐに解る。

 特にあの時は暗殺者も送って来ていたし、俺の存在を知る機会は有っただろう。


 そういえば最後の方の連中は質が低かったが、アレは俺が居たせいかもしれないな。

 腕の良い奴は逃げたのかもしれない。領主代理は暗殺者が俺を恐れていると言っていたし。

 残りは大した腕の無い、報酬にホイホイつられたアホか、無駄に矜持の高い馬鹿か。


 思考が逸れた。どの道今の時点では、情報が流されているのかどうかは解らない。

 とはいえ流している奴は誰だと、虱潰しに探すのも面倒だし、現実的じゃ無いだろう。

 この情報を知っているのは特権階級だけとはいえ、中々に面倒くさい数が居るはずだ。


 一人一人尋問するのも手間だし、敵でもない人間を壊す可能性がある行動は気乗りしない。


「・・・気になるなら、私の方でも少し手を打っておこうか。流石にこの事実を知る人間の数を考えると、横流ししている人間を見つけるのは難しいかもしれないが」

「やってくれるなら頼んで行くが、態々頼む気が無かったから交換条件は受け付けんぞ」

「気にしなくて良い。報酬なら先にミク殿から貰ってしまっているからな」

「・・・俺は何かしたか?」


 牛の事を話した事だろうか。それは朝一の対応で相殺する程度の事だと思うが。


「私の怒りの分もぶん殴って来てくれたんだろう?」

「・・・ああ、そうだな。ぶん殴って来た」


 そうか、そうだな。彼も腹に据えかねる怒りを持っていたんだったな。

 自分の治める地を攻撃され、そして死者まで出てしまった。

 戦争には参加しない事を表明していたが、本音を言えば滅ぼしたい程の怒りだったろう。


 だが彼は冷静に、領地の為に、民の為に、兵士の為に、一番利益になる選択をした。

 だからその怒りを晴らしてくれた俺に対して、その礼として動きたいと言っている。


「殴った時は、領主殿の事は忘れていたがな」

「ははっ、構わんさ。貴殿がやってくれた。元凶を殴ってくれた。それで満足だよ」

「・・・本当の元凶は逃がしてしまったがな」


 一番の元凶は今も逃げ延びて、やりたい事をやっている事だろう。

 だからこそ、その事実をメラネアに伝えに行くんだが。


「ああ、そうみたいだな。だからこそ私は、貴殿への協力を惜しまない。その連中は絶対に放置して居てはいけない。本来なら指名手配をして国を挙げて捕まえるべき連中だろう」

「出来ないのか?」

「その連中の存在を明確に確認できてない事が一点。これでは指名手配のやり様が無い。そしてもう一点。この連中を追い詰めるなら秘密裏でないと、形振りかまわない被害を出されてしまう危険もある。身がバレていないと思っているからこそ、暗躍して解り難く動いてる訳だしな」

「・・・面倒だな」

「全くだ」


 だが解らなくも無い話だ。というか解る。外道は確かにそういう事をやる。

 捕まらない為にこっそりとやっていた事を、もうやる必要が無いからと被害を増やす。

 腹立たしいが、捜索の手が広がる事で形振り構わなくなる、というのは起こりえる。

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