第646話、金銭で気を付ける事

 朝一で領主館に向かい、領主に時間があるかを訊ねた。

 すると使用人が大慌てで出て来て、領主がすぐ対応してくれる事に。

 今回は流石に個人的が過ぎる用なので、都合の良い時間を聞きに来たつもりだったんだが。


 とはいえ対応してくれるというのであれば、素直にそれを享受する事にした。

 ついでに牛の様子なども聞かれて、それを答えた事が報酬とでも言えばいいだろうか。

 使用人は相変わらず嬉しそうに対応しており、精霊は満足そうに菓子を食っている。


「ふむ、この国か」

「ああ、何か注意点でもあるか、知っていそうな人間に聞いておこうと思ってな」


 領主なら見せて問題無いだろうと思い、昨日貰った紙をテーブルに広げた。

 案の定はこれの存在を知っており、特に驚く事なく確認をしている。


「貴殿を知らない者が舐めてかかる可能性は・・・どの国に行っても同じか」

「まあ、そうだな。何処でも一緒だろうそれは」


 この国でも最初はそうだった。俺の見た目から舐めて来る奴は結構多い。

 むしろ今でもそうだと思う。俺が誰かを知らない奴は未だに舐めた態度だ。

 おそらくそれは何処に行った所で変わらない。特に俺がこの態度である限りは。


 敵対者に優しい対応する気など欠片も無い以上、確実に何処かで問題は起こるだろう。

 それを俺が改善する必要も意味も無い。この国に居ても結局それは同じだ。

 俺が譲る気が無い事を理解して居る領主は、この点について話すのは止めた。


「貴殿が暴れた所で我が国は関係無い、という事に出来るのが貴殿のおかげだと、後々思い知る事になる連中も出てきそうだな。くくっ」

「・・・俺を未だに国の所属にさせたい連中か。まあ、責任問題になるだろうな」


 俺は国に所属しているつもりは無い。だからこの国とは極論関係無い。

 勿論領主との今までの関係など、そういった事を言い始めれば別の話だ。

 だが俺は無所属であり、無所属の人間が暴れた所で、暴れた国以外に関係が無い。


 もしこの国の連中が俺を『この国の精霊付き』だと言っていたら、酷い目に遭う事だろう。

 国としては無所属を貫き通すだろうが、匂わせていた人間が居たら処罰は免れない。

 ほのかに匂わせる程度なら問題無い、とか甘い事を考えてる奴は未だに居そうだからな。


「先ずそうだな・・・国交がある国だし、我が国の通貨も使える事は使える。ただ額が曖昧になる店も結構多いだろうし、足元を見て来る店もあるかもしれない。それに大きな街なら他国の通貨でも良いだろうが、小さな村なんかだと嫌がられる可能性もあるだろうな」

「やはりそうか。宝石か魔核を持って行った方が早そうだな・・・」


 当然と言えば当然の答えで、やはり他国の通貨を持ってくより現物の方がよさそうだ。

 そもそも通貨自体に価値がある物であり、だからこその別の国の通貨での交易が出来る。

 ただその通貨の配合率を理解している人間など、そんなに多くは無いだろう。


 大手の商人か、交易を良く解っている貴族か、それこそ外交官達か。

 小さな商店でも理解している所はあるとは思うが、余り期待しない方が良いだろう。

 足元を見るというより、損をしない様に多めの請求をする店があって不思議はないしな。


「言語に関しては、この周辺の国はだいたい同じ言語だ。少々癖が違って聞き取れない地域も出て来るかもしれないが、ある程度の国は移動しても問題無く会話出来る。村人には通じない可能性は有るが、大きな街なら問題無いだろう。そこそこ遠くまでこの国の言葉で通じるはずだ」

「・・・言語か」


 この前行った敵国は、この国と同じ言葉を使っていた。

 だから特に気にしていなかったが、国を越えれば当然言葉も変わるか。

 最初から言葉を理解出来ていたから、そういった感覚が抜け落ちていたな。


 ・・・他国の言葉もすぐ解るんだろうか。少し気になる部分だな。

 それに良く考えたら精霊達は、どうやって言葉を学んだんだろうか。

 狐も猫もこいつも、普通にこの国の言葉を話している。


 単にこの界隈に居る精霊だったからか?


「後この国は一部の街道で通行料が要るはずだ。徒歩だとそれほど取られないが、車の場合は結構取られるな。その代わり商人は安全と通行の便が手に入る訳だ。この地域の移動をしている商人達は、護衛を余り多く雇わない傾向がある。規模の大きな賊は存在できないからな」


 成程、要は街道の整備の為の通行料という訳だ。ただの関税で無い訳だな。

 しっかりと整備された道と、その周辺を守る兵士が居るのだろう。

 金をとって守らなければ商人達が敵になるので、それなりに力入れているだろう。


 とはいえそれでもどこまで守れるか解らない以上、商人側も多少の護衛は必要だと思うが。


「まあ通貨に関しては、組合に行くのが一番簡単だと思うがね。徒歩で行商人でもない人間なら金をとられる事も少ないだろうし、大きな街で金をおろす方がそこの通貨で貰えるだろう?」

「国をまたいでも、組合の金は有効なのか」

「この書類が出る時点で有効だろうな。これが出ない組合なら無理だろう。もし同じ名前の組合だとしても、別組織だと思った方が良い」

「成程」


 同じ名前の別組織か。関わる事が有るかは解らないが、一応覚えておこう。

 この国から離れた所では、似た様な組織で競っているのかもしれないな。

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