第641話、どの力が要因か

「興味深い魔術ではあったが、本題に戻るぞ」

『本題って何だっけ?』

「・・・もうちょっと私の事を褒めてくれても良いと思うんだけど」

「あーはいはい凄い凄い。それで良いか」

『すごーい! でも何がすごいんだっけ?』

「ほんとこの子さぁ! もうさぁ!」


 それはこっちのセリフだ。本当に面倒くさいなこの女は。

 お前が凄いのは解ったから本題に入らせろ。

 そんな視線に気が付いたのか、支部長は溜息を吐いて佇まいを直した。


「はぁ・・・で、なんだったかしら、本題って」

「魔獣の素材と魔核の件だ、話が途中だっただろうが」

『おー、そうだったそうだったー。お菓子も途中だった。もぐもぐ』


 精霊は再度菓子に集中し始めたので、暫くは邪魔されないだろう。

 今後もその為に菓子を常備しておくか? いや、片っ端から食いそうだな。

 脱力する結果に終わりそうなので、この案は無しにしておこう。


「そもそも魔核という物がおかしな器官だと思っていたんだ。何故死体から取り出したにもかかわらず、魔核の力は消えないのか。明らかに体内機関としておかしいだろう」


 魔核は魔獣の力の源だ。それぐらいは知っている。

 だがそれだと何故死後も力が宿っているのか。

 素材として使われている物であっても、何時かは劣化して魔力が抜ける。


 なら単純に内臓器官なのであれば、死後は魔核の魔力も抜ける方が自然。

 だが魔核は魔獣の死後も力を持つ。更には他の魔獣に力を与える。

 完全に不思議器官だ。最早魔核の方が本体なのではと思う。


「言わんとする事は解るけど、現実としてそこに在る以上、そういう物だって受け入れるしかないんじゃないのかしら。世間の常識でもあるし、疑問に思う人の方が少ないんじゃない?」

「常識、か・・・」


 確かにそう言われると、反論は少し難しいな。

 何故あのリンゴが地面に落ちるのか。そんな問い凡人には知った事じゃない。

 落ちるから落ちるんだろう。そんな常識に疑問を持つな。それで終わるだけだ。


「それに魔核だって消滅するわよ」

「そうなのか? 持っている魔核は、どれも消える気配が無いが」

「魔力を使い切ったら消えるのよ。それこそ砂の様にどころか、何も無かったかの様に」

「何も、無かった様に・・・」


 つまりそれは、魔核は物質としてそこに在るが、実際は無い物という事だろうか。

 強い魔力が形となってそこに顕在しているだけで、本来は形が無い物だと。


「あえて理屈を語るなら・・・纏う魔力が強い程魔核の質は良い。なら魔獣が魔術を使う為の体内機関であり、そこから魔力を引き出していると考えられているわ。ただし死後に使い潰すのとは違って、使った魔力を補給、保管できる器官でもある、って考えかしらね」

「・・・成程」


 魔力を溜め込める器官であると同時に、魔術の出力の調整器官でもあると。

 真実であるかどうかは解らないが、多少は納得できる説だな。

 そして魔核を食った魔獣は、自分の魔核にその力を組み込んで強くなるか。


 ならやはり、俺の体にも魔核があるんだろうか。流石に胸を掻っ捌くのは怖いな。

 俺としては体の何処かから引き出している、という感覚は無い。

 むしろ体全体に魔力が満ちているという感じだろうか。


 勿論魔術を使う際に魔力を流し込む訳だから、実際に魔力がそこに在る訳じゃ無い。

 だが、そうだな、あえて言うなら・・・俺は全身が魔核の様な感じだろうか。

 この体全部に魔力が詰まっている。そんな感じだ。


 最初の頃はそうでも無かったが、最近はそう感じる。自分でも不思議だが。


「その事を踏まえると、私に予想出来るのは一つ。貴女がやった事は、きっと貴女にしか出来ない事だと思うわ。あんまり人前でやらない方が良い・・・と思うわよ」

「・・・やはり、そう思うか」


 うっかり支部長に話した事。俺が魔獣も混ざった化け物だという話。

 そして魔獣素材に魔力を流し、強化出来る事実。

 導き出せる答えはどうしたってそうなるか。


「俺の魔獣の力が、魔核の魔力を無理やり引き出した、という事か」


 何処までも俺は、魔獣の力が前に出るな。便利なので助かるが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る