第639話、暇な帰り道の飛び飛び思考
「やる事とやりたい事が重なると面倒だな・・・いや、俺にとってはどちらもやりたい事か」
『やりたい事いっぱいあって幸せだね!』
「必要に迫られての部分が有るのが否めない以上、そう断言するのもどうかと思うがな」
『兄はやる事いっぱいだと楽しいけどなー』
取り合えず一旦山の奥へ向かい、途中で見つけた犬とも猫ともつかない獣を狩った。
特に何かしらの能力がある訳でもない、身体能力が高いだけの魔獣だ。
俺の一番やり易い相手だったし、苦戦する事も無かったので即座に終わった。
とりあえずこれを支部長に引き渡したら、交換条件は達成だ。
獲物を背中に抱えて山中を走り、森から抜け出て砦を視認する。
その時点で見張りは俺に気が付いているだろうが、この距離ならなまだ警戒しているか。
獣を背に抱えている形なので、俺の姿は見えないだろうしな。
「・・・しかし今更だが、この山の植物の生命力は凄いな」
『げんきだねー! にょきにょき大きくなって美味しい実をつけて欲しいね!』
基本が雪山で、雪が解けてもその期間は短い。奥の方はほぼずっと雪山だ。
だというのに植物は育っているし、結構寿命の長そうな木も有る。
放置しておくと砦の近くまで結構大変な事になるそうだ。
定期的に騎士達が整備しているらしい。騎士の仕事として合っているのだろうか。
とはいえ山側に非戦闘員を連れて来ると、いざという時に守り切れない可能性が高い。
となるとどうしても、雑務でありながら実力者の騎士達の出動になる。
辺境の騎士達が基本気安いのは、こういった実務作業も要因かもな。
平和な王都の騎士様的な、本当にいざという時以外は動かない騎士とは違うし。
俺が山に向かう様になってからも、何度か調査と訓練で山側には入ってるみたいだしな。
「・・・一般的な観点からすると、化け物ぞろいの辺境騎士、といった所か。結局上手く行かなかった訳だが、もし領主暗殺に成功していたら、騎士達の反乱も有ったかもな」
『ほん? 騎士? なんで騎士の話? 騎士が木にみのるの? 何それ見たい』
辺境の領主はこの土地を治める者であり、更にはかなり慕われている。
そんな人間が消えた時どうなるか。ストッパーが無くなるのと同じだ。
領主が死んだから変わりの者を置くと言われ、はいそうですかとなる訳が無い。
となると領主暗殺の流れのままに、騎士達も殺すか人質を取るしかない。
殺してしまえば辺境を保つ人員が居る。だがここでやっていける人間は多く無い。
山側の魔核を目玉にしている所があるのに、それも手に入らなくなる可能性がある。
「うん? これ暗殺を防がなくても、結局失敗したんじゃないか?」
『騎士が木で増えるから?』
辺境に来た暗殺者共は、確かに人間にしては強かった。
特に指揮官に限って言えば、流石はメラネアの師だと思う程に。
だがその程度だ。アイツ等は『人間』を殺す事に特化している。
勿論例外も居た。メラネアもその例外の一つだ。
それでも殆どの連中は辺境の魔獣を相手にする技量はなく、なら奴らは辺境で使えない。
つまり安定供給できていたはずの質の良い魔核を、下手すると一切入手できなくなる。
これは領主を万が一にでも殺していれば、結果は自分の首を絞める事になったのでは。
「いや、メラネア次第か。アイツが今もあの時と同じなら、アイツが生きている間は天下・・・とはならないな、多分。あいつは短期決戦型だった。間引きが出来るかは怪しいな」
『おん? 今度はお友達が恋しくなったの? 今日の妹は気がそぞろだなぁー』
メラネアの生身の戦闘能力は、街道側の魔獣なら全く問題は無い。
装備さえ良ければ山側も麓なら行けるかもしれない。だが奥地は不可能だ。
アイツの体は普通の子供だ。鍛えているとはいえ人間の体だ。
それを覆そうとするなら、精霊の力を使うしかない。
精霊の力が無ければ、アイツにはどうしようもない魔獣がゴロゴロいる。
間引きも、山奥から降りて来た魔獣の対処も、全てメラネアに任せる?
馬鹿な話だ。体が持つ訳が無い。確実にあっという間に破綻する。
そしてメラネアを失えば奴は終わりだ。メラネアこそが組織の要だったんだからな。
「俺が居なくとも、欲をかいた結果の破綻が見えていたな。欲深い悪党など所詮そんなものか」
『兄は欲深いけど幸せだよ!?』
さっきから聞いてもいないのに煩いな。そうこうしている内に砦に到着。
魔獣を入れる為に門を大きく開けて貰い、兵士達の付き添われて組合に戻った。
兵士達が居ないと、住民が驚くかもしれないからな。でかい魔獣だし。
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